2.4. 大気海洋相互作用
さて、大気や海水は常に運動しています。大きな貯熱量を持つ海水が大規模に動きますと、海面水温の分布が変ります。大気は海から暖められていますので、大気の運動の場も変ります。大気の運動は風です。風は海面を擦り(専門用語では風の応力と言います)、新たな海水の運動を引き起こします。したがって、さらに海面水温の分布が変り、これが大気にまた、…。止めどもなく、連鎖していくのです。つまり、大気と海は一方的に影響を与えているのではなく、相互に作用し合っているのです。この意味で大気と海は、「大気海洋相互作用系」をなす、と表現します。図1にこの事情を示した模式図を示します。このような大気海洋相互作用の結果生ずる例として、続く章で述べるエルニーニョや数十年スケール変動があります。この分野の研究は、海洋学と気象学の双方にまたがっており、現在大きく進展しつつある分野です。
2.5. 地球温暖化と自然振動
気候変動は振動的な現象を指しますが、地球温暖化に代表されるような一方向に変る気候変化も存在します。図2は、ここ百数十年間の地表面気温の推移を示したものです(気象庁、1997)。地表面気温は20世紀に入ると急激に上昇し、特に1990年代は観測史上もっとも気温が高かった10年となっています。この原因として、産業革命以来人類が化石燃料を大量に消費してきましたが、それによる二酸化炭素などの温室効果気体の増加が指摘されているのです。しかし、地表面気温は単に右肩上がりの一方向の上昇をしているわけではありません。図2の時系列を詳しく見ると、数年スケールの変動の他、数十年スケールの変動も同時に存在していることが分かります。このような変動は、例えば二酸化炭素濃度の時間変動には見られないことから、自然振動(natural oscillation:人為的な影響なしに生ずる自然界それ自身が持つ固有振動)に起因すると考えられています。このうち、数年周期の変動はエルニーニョに関連しています。また、数十年スケール変動も大気海洋相互作用系が作りだしているものと考えられています(注2)。すなわち、地球温暖化信号の精密な検出のためにも、この自然振動による気温変動を、図2に示された変動から適切に除去することが、求められているのです。
3. エルニーニョ
本誌の読者にとって、エルニーニョはなじみの深い現象と思いますので、ここではごく簡単に触れることにします。1997/98年の観測史上最大のエルニーニョや最新のエルニーニョ研究を解説した「エルニーニョと地球環境」(気候影響・利用研究会編、1999)、「エルニーニョ現象を学ぶ」(佐伯、2000)など、優れた解説書も出版されていますので、詳しくはそちらを参照して下さい。