図4 中層フロートによる水温(℃)・塩分(千分率)データの圧力(デシバール)に対するプロファイルの観測例(0〜1,000デシバール(約1,000m)、2,000年1月17日、北緯42.816度、東経158.039度)。計算された密度(σt=(ρ-1)×1,000)も図示。
σt=27はρ=1.027g/cm3を表す。
4. 技術的な課題
米国で開発された中層フロートは、現在も海洋の研究や海況の監視などに活用されていますが、技術的に、まだ改良されなければならない点もいくつか残っています。
塩分データ
塩分は、海水の電気伝導度を計測することによって、0.01の精度で観測することが求められています。現在電気伝導度は、電磁誘導方式、あるいは電極方式で測定されています。しかし、長期間にわたり海水中に置かれるため、生物活動による汚れの付着などにより、徐々にセンサーの精度が悪化します。安定的に塩分データを取得するためには、センサーの汚れを避けるための措置、例えば、生物活動の盛んな表面海水中に漂流する時間を短くして、できるだけ汚れを避けるような工夫が必要となっています。
データ通信
衛星を経由して送信されるデータ量は、1観測あたり2キロバイトと見積もられています。これは、表層の0〜500mでは2m間隔で、中層の500〜2,000mでは5m間隔で、水温・塩分とも0.001までの単位のデータを要求した場合のデータ量です。つまり、深さ方向には550点のデータを送ることになります。しかし、現在は、気象庁の亜寒帯循環の調査で示したように、45点程度ですから1桁以上の増加になります。現在のARGOSシステムでは、上空に衛星が飛来した時でないと通信できず、また、通信速度も遅いので、フロートは海面に長く滞在しなくてはなりません。このため、塩分センサーなどに汚れが付着したり、フロートが海面流に流されて、海面よりもずっと弱い中層の海流を精度良く評価することができなくなります。また、無駄な通信が多くなり、バッテリーを消費する結果ともなります。このため、通信速度の高速化や、常時通信可能な方式に変える必要があります。現在、通信速度を高速化させた改良型ARGOSシステムのNOAA衛星への搭載が始まっています。また、ORBCOMM (オーブコム)と呼ばれる低軌道周回衛星通信システムでも通信可能なので、このシステムを塔載した中層フロートの実証試験などが行われています。これらにより、海面での滞在時間をわずか30分に短縮することができるようになります。
中層フロートの展開
ARGO計画では、全世界の海に緯経度3度毎を目安として3千個展開することとしていますが、広大な海洋に3千個ものフロートを展開するためには、観測船ばかりでなく、一般商船や航空機などを使い、効率的にフロートの展開を進めることが不可欠となってきます。