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衛星Jasonは、海面の高度を全世界の海洋について観測しますが、Jasonからの海面高度のデータをARGO計画から得られる海洋表・中層の水温・塩分データと併せて利用することにより、海洋表・中層の水温・塩分の鉛直分布を精度良く推定することができ、全世界の海洋表・中層の水温・塩分のマッピング及び循環の診断が可能となり、上記の目的を達成することができます。

 

2. 中層フロート

現在実用化されている水温・塩分鉛直プロファイル測定フロート(中層フロート)は、PALACE (Profiling Autonomous LAgrangian Circulation Explorer) と呼ばれるものが主流で、広範囲で定期的な海面から深さ数百〜約2,000mまでの水温・塩分の観測を可能にしました。フロートは前もって決められた深さを漂流するよう油圧ポンプを使って浮力の大きさを調節しておきます(図1)。フロートは、あらかじめ決めた時間間隔で、海面に上昇します。この時、決められた深さから海面までの水温と塩分の鉛直プロファイルを測定し、海面で、極軌道気象衛星NOAAを経由して、データを伝送します(図2)。この衛星通信システムはARGOS (アルゴス)システムと呼ばれていますが、衛星が4個しかなく、また、伝送速度も遅いため送信すべきデータを全て確実に伝送するためには、フロートの上空にこの衛星が何回もやってくるのを待つ必要があります。そのため、約1日間海面に漂流してデータを送信し、それから再び海中の決められた深さまで沈んでいきます。フロートの寿命はそのバッテリー容量と浮上の頻度に依存しますが、ARGO計画を国際的に企画・策定しているARGO科学チームは、深さ2,000mまでの観測を時間間隔1〜2週間で行うことを推奨しており、この場合の寿命は約4年間です。この中層フロートを全世界の海洋に3,000個展開し、常時、世界の海洋から水温・塩分のデータを収集しようとしています。10日に1度観測すると、毎日300のプロファイルが得られることになります。

図3と図4はそれぞれ、ARGO計画とは別に、北太平洋の亜寒帯循環に関する調査のため、気象庁が日本の東方海域に放流した中層フロートの軌跡と水温・塩分そしてそれらから計算される密度の鉛直プロファイルの1例を示しています。この例では、中層フロートは約1,500mの深さに、また浮上する間隔は10目間、そして観測データは、水温・塩分それぞれ43〜44点分の深さについて伝送するようセットされています。

さらに、PALACEフロートを改良したAPEX (Autonomous Profiling EXplorer) と呼ばれるフロートも実用化されています。このフロートの特徴は、漂流する深さの設定がPALACEフロートのように1層ではなく、2層にできることです。この機能により、通常は浅い設定層を流れ、浮上前に深い設定層(最大2,000m)まで沈み、そこから海面までの水温・塩分プロファイルを観測することができます。

 

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図3 中層フロートの軌跡の例(1999年5月3日投入、水深1,500m、点は10日毎の位置で星印が最新(2000年1月17日)の位置)

 

3. データの収集・解析・提供

浮上した中層フロートは、観測したデータを極軌道衛星NOAA経由で地上に伝送するため、約1日間海上を漂流します。これらのデータをフランスにあるサービスARGOS社が受信し、フロートの運用者にEメールなどを使って送付します。現在、ARGO計画とは別の目的で中層フロートを運用している機関(日本では、気象庁のほか気象研究所、東京大学海洋研究所など)は、やはりEメールを使ってそのデータを気象庁に送付し、気象庁では、国際気象通報式に従ったフォーマットに整形した上、全球気象通信網(GTS)に入力しています。

 

 

 

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