付録-1
添付資料-1 月刊「気象」 2000年7月号より転載
ARGO(アルゴ)計画
佐伯理郎
1. ARGO計画とは
全世界の海洋の状況(水温、塩分、海流の分布など)をリアルタイムで監視することは、海洋を対象に研究や業務を進める者にとって、長年の夢でした。大気を対象としている気象人にとっては、国際協力や、気象測器の近代化に伴い、全世界の天気図が50年以上も前から手に入れられるようになり、これをもとに数値予報の実施が可能となっていました。これは、地上における気象観測や、現在約900点ある高層気象観測点の毎日2回のラジオゾンデによる高層気象観測の結果が、地上天気図や高層天気図の作成を可能にしたもので、これらの解析結果を数値予報の初期値として使うことにより、数値予報が可能になったわけです。
これと同じように、海水中の水温や塩分の観測データをオペレーショナルに入手できるようになれば、海洋関係者の長年の夢であった海洋の中の天気図を作成し、それをもとに全世界の海洋の数値予報も可能になるわけです。この長年の夢を可能にする第一歩として、ARGO計画が推進されようとしています。
ARGO計画は、国際的な枠組みの中で、中層フロート(浮き沈みする長さ約1mの筒状の計測機器:次節参照)を全世界の海洋に約3,000個展開し、中層循環、表層から中層までの水温・塩分を観測しようというもので、得られたデータをもとに、
1] 全球にわたる海洋表・中層(0〜2,000m)の水温・塩分のリアルタイム監視
2] 衛星の海面高度データを併せて解析することによる海洋表・中層の循環の診断
3] 数値海洋モデル(予測モデルや同化モデル)の初期条件や束縛条件の付与
などを行うことを目的としています。これらの目的を達成するとともに、海洋モデルや大気海洋結合モデルの高度化が図られ、長期予報などの精度の向上が期待されます。
ARGO計画という名前は、上記2]に由来しています。Argoは、ギリシャ神話に登場する英雄Jasonがその仲間とともに、Golden Fleece (黄金の羊毛)を捜し求めるために乗った船の名前です。現在、レーダー高度計を搭載したTOPEX/Poseidonという衛星により海面の凸凹が観測されていますが、その後継機として計画されている衛星の名前をJasonと言い、宇宙から観測を行うJasonに対して、海中の観測を行うこのシステムをArgoと名づけました。