次に、進行速度と風速との関係をより細かく調べるために、台風の中心気圧を960〜989hPaと狭い範囲に限定して進行速度別に同様な解析を行ったので、その結果を図2.8に示す。進行速度が速いほど右側の風速は全体的に大きくなることがわかる。進行速度と風速分布における左右の非対称性の関係に着目してみると、中心付近では進行速度が速いほど非対称性が大きくなる若干の傾向がみられるが、台風周辺全体の分布としては明らかな関係はみられない。
以上台風の進行方向からみた16方位別に風向・風速の特徴を調べたが、これらを台風の右側、後方、左側、前方の方位毎に平均してその特徴を更に調べた。台風の中心気圧によらない進行速度毎の風速の断面図(中心からの距離に対する風速の分布)と吹き込み角の断面図を図2.9に示す。また、台風の中心気圧を960〜989hPaと狭い範囲に限定した進行速度毎の風速の断面図(中心からの距離に対する風速の分布)と吹き込み角の断面図を図2.10に示す。
これらから分かる特徴は以下の通りである。
● 進行速度によらず右側の風速が最も強い。
● 中心気圧を960〜989hPaと限定した場合、中心からの距離が150kmより内側では、進行速度が速いほど右側の風速は大きく、左側の風速は小さくなって左右の風速の非対称性が強まる傾向にある。
● 進行速度によらず、吹き込み角は中心付近の方が周辺と比べて概ね大きい。また、中心からの距離が200kmより外側では、内側よりも、距離による吹き込み角の変化が小さくなる。
● 中心気圧を960〜989hPaと限定した場合、進行速度が速いほど吹き込み角は概ね後方で大きく前方で小さくなり、前後の吹き込み角の非対称性が強まる。
2.4 まとめ
本研究では、台風の進行方向に対して、右側は風が強く、左側は弱いという、従来言われてきたことを確認することができた。また、中心付近の吹き込み角は周辺と比べて大きく、台風の後方の吹き込み角は前方の吹き込み角より大きいということが統計的に明らかになった。なお、この章での解析結果は、ERSデータの仕様の説明部分で記述したように、次の点に留意して扱う必要がある。