2.3 解析結果
台風経路と海上風の観測例を図2.1に示す。これは、1996年の台風24号による強風の観測例である。衛星が観測した時刻は1時30分頃で、経路図中に示された台風諸元は3時のものである。台風の中心に向かって、風が反時計回りの渦巻きの形で吹き込んでいる様子が分かる。
次に台風域内の風の分布を示す。図2.2は2.2節(3)で示した1] 全データを対象にしたものである。台風の中心を原点、進行方向を0 度として、方位を16に分けている。これによると、進行方向から見て右側は左側よりも風速が大きい。また、風の吹き込み角は、前方よりも後方の方が大きい。ここで吹き込み角は、等圧線を円としたときの接線方向と風向とがなす角度とする。
この結果を、1935年の三陸沖台風時に旧海軍水路部が観測した結果(宇野木(1993))と比較する。水路部の観測結果を図2.3に示す。台風の中心からみて、進行方向の右側の方が左側よりも風速が大きいという点は、衛星の観測結果と一致している。
最後に、台風域内における風向風速のばらつきの程度をみるため、全データを対象にした標準偏差の分布を図2.4に示す。風向、風速ともに台風中心部に近いほど標準偏差が大きいが、これは数時間毎の台風位置情報を時間内挿することで衛星観測時刻の台風中心位置を推定していることからその位置に多少の誤差が含まれてしまい、台風中心に近い領域ほどその影響を強く受けるのでデータのばらつきが大きくなっているものと考えられる。また、台風の進行方向左側の方が右側よりも標準偏差が大きくなっており、これは左右の非対称性という台風の構造上の性質が風向風速の時空間的な乱れの大きさにも現れている可能性があり興味深い。