しかしながら、これらの要求は一箱にtrade-offの関係にあり、観測数が絶対的に少ない海域ではすべての要素とも充分に満たすことは難ししい。
一方、英国気象局が中心になって編纂されているGISST (Global sea Ice and Sea Surface Temperature)データセットなどでは、観測が大西洋の一部にしか存在しない1850年代から全球海洋において緯度経度1度格子月平均の分解能で海域のすべての格子点に欠測でない格子点値をもっている。GISSTでは、観測が充分にある最近数十年におけるデータセットに対する経験的直行関数(EOF)解析の結果を用い、限られた海域の情報から全球海洋の格子点値を補間している。つまり、観測が全くなかった海域においても、どこかで観測があればすべての格子点に推定値を内挿(外層)することは可能となる。
本来、GISSTは数値実験の境界条件として作成されてきているという経緯がある。それにもかかわらず、統計的手法を駆使して、EOF解析を用いて推定された格子点値を多く含む海域及び期間における変動を把握することも比較的よく行われている。対象となる海域・期間の格子点値のすべてが推定値でない以上、それらの解析が全く意味のないものではない。けれども、それらの解釈には非常に多くの注意を払う必要がある。
北大西洋海域においては北太平洋海域に比べ比較的観測数が多くあるもののこれまで本研究プロジェクト「全球の船舶観測データセットの整備とそれを用いた海洋気候の長期変動の解明」に関連する研究から、第1次世界大戦時には観測密度が極度に減少したことを示している。実際、純粋に観測値だけを基にした(推定値がない)緯度経度5度格子月平均地表面気温データセット(英国気象局、英イーストアングリア大学作成)においても、この年代における観測値は環大西洋海域にほとんど見られない。
神戸コレクションの観測値にはこれらの年代における観測が少なくなく、もともと現在提供されているデータセットの中には、観測値が存在していなかったので、電子媒体化による解析対象のデータ増加は過去の実態の把握という観点において非常に大きい改善をもたらす。