2. データ
気象庁で1961年以降編集処理されている国際海洋気象テープ(IMMT)データには、海上風速・風向、気温、気圧などの通常海上気象要素の他に各船舶に固有な符号(call sign)が含まれる。一方、米国NOAA編集のCOADSには同様な情報が含まれていない。
船舶観測における一連の情報が、世界気象機構(WMO)によって毎年発行されている国際船舶情報覧(International List of Selected, Supplementary and Auxiliary Ships、以下ILSSASと略す)に記載されている。この中には、船舶符号と共に風速計高度の記述があるので、IMMTデータ中の符号と照合することによって、観測高度を知ることが可能である。
3. 高度補正の方法
IMMT海上風データは、図1に見られるように1960年代後半より目視観測と風速計観測に大別され、1970年代から80年代にかけて後者が年々増大する傾向にある。一方、ILSSASによる船舶情報は1970年以降間欠的ではあるが、VOS観測における風速計高度の値を提供する(図2)。これを見ると、年平均風速計高度は年々増加傾向を示し、1970年(約27m)から1980年代末にかけての上昇は約10mに達する。これを線形の一次帰式で表すと次を得る。
Height=27.0+0.503*(year-1970) (1)
IMMTデータ中の船舶符号を用いて、ILSSASに存在する符号と照合することによって観測高度を求めることが可能であるが、照合不可能なデータは(1)式による年平均高度を代用する。一方、目視観測データは全て10m高度における観測とみなした。これらの処理方法の手順は図3に示される。10m高度における風速値への換算および海面応力の算出は、Large and Pond(1981)に基づく方法に準じており、その際、船舶観測に含まれる海面水温・気温データを用いることによって、大気安定度の影響も考慮した。方法の詳細は、Kutsuwada(1998)を参照されたい。その後、各5°x5°格子における月平均の海上風・海面応力ベクトルおよびスカラー風速を導出した。
4. 結果
ここでは、北太平洋中緯度の偏西風海域に注目する。当該海域は船舶の主要航路に相当し、比較的データ密度が高い海域である上、COADSデータにおける東西風の12ヶ月移動平均時系列による標準偏差の分布(図4)における極大、即ち経年変動が大きい海域であることが分かる。
図5の東西風(a)およびスカラー風速(b)に対する時系列(12ケ月移動平均)を見ると・高度補正の有無による相違は、東西風では有意な差は認められないが、スカラー風速では年々増加傾向にあり、1980年代末には約1.0ms-1に達している。図6は、COADSにおけるスカラー風速かう求めた1960年代と1980年代における10年平均場を示しているが、両者を比較すると・偏西風海域において、最大約1.0ms-1に達する増加傾向が認められる。以上から、スカラー風速の長期変動の解析においては、高度補正が必要であることが示唆される。
同様な比較が海面応力成分の時系列対しても可能である(図7)。同海域における東西成分応力の時系列を見ると、高度補正の有無による有意な相違が明かであり、1980年代後半には約0.01Nm-2に達する。同様な比較を南北成分についても行うと(図は省略)、約0.004Nm-2に達する相違が認められる。以上より、海面応力における長期変動の解析においても高度補正の必要性は否定できないといえる。