3.4 船舶観測資料を用いた海上風長期変動解析における問題点
轡田邦夫 Kunio Kutsuwada
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要旨
船舶観測資料を用いた海上風長期変動の解析をする上で、船舶の大型化に伴う風速計高度の上昇傾向が無視できない誤差要因と考えられる。IMMTデータを用いて10m高度風速への補正を行った格子データを作成し未補正データとの比較を通して、その影響の検討を行った。北太平洋中緯度海域に注目して解析を行った結果、海上風ベクトル成分の時系列では有意な相違が認められないが、スカラー平均風速では1980年代末において最大約1.0ms-1に達する顕著な相違が見られた。また、海面応力成分における相違も最大0.01Nm-2に達しており、高度補正の必要性が明かとなった。
1. はじめに
海面応力は、海水運動の基本的な駆動力としての役割を果たし、通常海上10m高度における風速・風向データよりバルク公式によって求められてきた。1990年代以降、人工衛星散乱計によって供給される海上風データは時間的空間的に密な資料を提供するが、それ以前の十年を越える時間スケールを対象とする解析には、篤志観測船(Voiunteer Observing Ships;以下VOSと略す)による観測データが大部分を占めるデータセットに頼らざるを得ない。ところが、これらVOS海上風には多くの観測誤差要因が内在することが指摘されている(e.g. Pierson, 1990)。その第一は、目視観測におけるビューフォートスケールの不確定性であり(Kentand Taylor, 1997)、第二は風速計観測が年代と共に大型化する船舶の影響を受けて10mよりも高い高度で成されたと予想される誤差である(Cardone et al, 1990; Kutsuwada, 1994; Kent et al., 1999)。前者は目視観測が大半を占めた1960年代以前が対象となる一方、後者は1960年代以降が問題とされる。一般に、大気下層では対数的に高度と共に風速が増大する傾向をもつため、年々風速が増大するトレンド傾向が見られるとしたら、その因として風速計高度の上昇が考えられる。
米国国立大気海洋庁(NOAA)作成の統合海洋気象データセット(COADS)は、長期変動の解析に有効な資料といえるが(Woodruf et al, 1987)、その大部分を占める船舶観測による海上風データにも同様な問題点があることは否定できない。それを検証する意味で、海面気圧場から海上風を推定することによる検証的研究も成されている(Ward, 1992; Hanawa and Yasuda, 2000)。
本研究では、気象庁編集の海上気象データIMMTを用いて10m高度風速への換算が施された格子データの作成を試みた。それらと高度補正を行わないデータとの比較を行うことによって、海上風の長期変動解析における風速計高度変化の必要性の検討を行った。