■地域環境問題の深刻化
昭和40年代以降からこれまで、大気汚染、騒音等といった地域環境問題(公害問題)は深刻な社会問題として取り上げられてきましたが、2000年に入って新たな局面を迎えました。
<大気汚染の改善に向けた大きなうねり>
2000年1月31日、尼崎公害訴訟第1審判決が神戸地裁で出され、我が国の公害裁判で初めて排出ガスの差止めが認められ、また、損害賠償請求の一部が認められました。本判決を受け、6月5日には、関係5省庁(警察庁、環境庁、通産省、運輸省及び建設省)(当時)による「国道43号等の道路交通環境対策の推進について(当面の取組)」が取りまとめられ、阪神高速道路5号湾岸線の料金について阪神高速道路3号神戸線に対して格差を設ける環境ロードプライシング、鉄道や船舶の利用促進、ディーゼル車に対する集中自主点検等を実施することとしました。その後、12月8日に、原告と国との間で和解が成立し、国は、国道43号線沿線の環境対策を積極的に推進していくことを約束しました。
また、11月27日、名古屋南部公害訴訟第1審判決が名古屋地裁で出され、尼崎公害訴訟と同様に、排出ガスの差し止め及び損害賠償請求が認められました。
地方公共団体においても、東京都の「ディーゼルNO作戦」やその他の地方公共団体でのディーゼル車対策等に見られるように、自動車から排出されるNOxやPMの排出削減に向けた動きが活発になっています。
こうした動きに対し、中央環境審議会において、2000年9月に、窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(自動車NOx法)において、対象物質としてPMを追加させること、同法の特定地域を拡大すること等を盛り込む必要性が示されるとともに(大気・交通公害合同部会「今後の自動車排出ガス総合対策中間報告」)、2000年11月に、ディーゼル自動車の排出ガス規制の前倒し(2007年→2005年)や軽油の低硫黄化(現行の500ppmから50ppmに削減)を図る必要性等が示されました(大気部会「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について(第四次報告)」)。
■運輸政策審議会答申と自動車交通のグリーン化
自動車は、その利便性の高さにより、社会にとって不可欠な存在となっており、その保有台数は、1989年の約5,800万台から1999年には約7,400万台と今なお急速に増加しています。しかしながら、自動車の利用には、地球温暖化物質であるCO2や大気汚染物質であるNOx、PMの発生等負の側面が伴います。
2000年10月19日、21世紀初頭における総合的な交通政策の基本的な方向性を示すことを目的とした、運輸政策審議会答申がまとめられました。この中では、自動車が人々の生活を脅かすことなく、真に豊かな生活をもたらすものとなるよう、その利用状況や利用に伴う影響を絶えず点検し、自動車交通の負の側面の是正策を果敢に講じることにより、安心感がある新しい交通システムを実現すること、すなわち「クルマ社会からの脱皮」を目指すこととしており、この目標を達成するために、
・環境自動車の開発・普及
・自動車税制のグリーン化
・交通需要マネジメント(TDM)手法を通じた都市交通システムの効率化
等を政策パッケージとした「自動車交通のグリーン化」の総合的な推進が提言されました。