基調講演
Keynote Lecture
継続的な開発による重質油焚き機関の優位性*
Heavy Fuel Engines Maintain Their Lead by Continued Development
S.G.Dexter**
近藤博美***(抄訳)
本講演では、重質油焚きの中速ディーゼルエンジンが40年間にわたり優位性を保ってきた理由について燃料価格と技術開発の観点から説明された。講演論文に基づき概要を下記に記載した。
1. 優位性確立の背景
燃料油の価格の時代的な動きから下記の2点、中速ディーゼルエンジンが重質油焚きエンジンに置き換わっていった理由を言及している。
1] 1960年代には、出力あたりの単価が安い中速エンジンに、さらに安価な重質油を用いることで運転費用が40%削減される優位性があり、この点から主機市場では中速エンジンが採用されたこと。
2] さらに、1970年代始めの最初の石油危機により、燃料油が高騰したために、舶用補機エンジンでさえ、燃料油が重質油になってしまったこと。図1に約40年間の重質油(HFO)と舶用ディーゼル油(MDO)についての価格の推移が示されている。
2. 技術的要求
エンジンに対して下記の4つの要求がある点と、それらの内容を説明している。
1) 信頼性向上の要求
2) さらに低い燃費の要求
3) エンジンコストの低減の要求
4) 排気エミッションの低減の要求
<信頼性向上の要求>
中速エンジンでは、重質油燃焼において低速エンジンほど十分に燃焼時間がとれないため、技術的に克服すべき多くの問題があった。このため、さらにエンジンの信頼性向上の要求の技術的課題に対して、エンジン主要部位の機能とその技術的手段を下記の5項目について理解し易いように参考文献などを用いて説明している。
1] ピストンリングとライナの摩耗
2] クランクシャフトと軸受け
3] 排気弁
4] 燃料噴射ノズル
5] 過給機
説明の中では、エンジンでの摩耗、汚損や損傷などに関わることに言及している。とくに、燃料油として、重質油を用いる場合のピストンリングとライナーの寿命は、舶用ディーゼル油を用いる場合に比較して半分であった。この原因は重質油の灰分や燃焼生成物、最近では触媒粒子であり、これらエンジン有害物質の大部分は燃料油と潤滑油の清浄機処理と濾過により取り除かれた。さらに、有害燃焼生成物は燃料噴射の改善された制御と過給機効率の向上により低減された。一大前進の技術的飛躍はアンチカーボンポリッシュリングの採用であり、図2に示されているが、ピストンクラウンからカーボンを取り除くために装着されたライナー上部の環である。この採用が、ライナーのホーニングパターンと油膜の保持により摩耗が減り、飛躍的に澗滑油消費量が減少した。一方、エンジン潤滑油における潤滑油消費と含有添加剤の維持バランスについての懸念が説明されている。
*原稿受付 平成12年12月12日
** AVL LIST GMBH
*** ダイハツディーゼル(株)(守山市阿村町45)