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8 海外からの救命・救援の援助隊の派遣については、被災地の消防機関が必要と認め、かつ派遣に伴う宿舎、食事、通訳、救助犬、同行マスメディアなどの対応を被災地外の他の消防機関が請け負う場合にのみ受け入れる。

 

六 危機管理のための情報処理

都市地震災害で大混乱が起こっている最中の基本課題はつぎの六つである。1]人命救助、2]消火、広域延焼阻止、3]避難、4]災害医療の実施、5]ロジスティックスの確保、および6]二次災害の防止である。阪神・淡路大震災の教訓から、大規模地震災害では、人命救助の担い手は近隣の住民であることがわかった。ただし、住民は自分の周囲の被害しか判断できないという限界があることを十分理解する必要がある。それ以外の公的なセクターによる人命救助活動とそれ以外の上述の基本課題を円滑に対処するには、情報に関して、概括把握、収集、解析、共有ということが欠ければ対応できない。これは、地震災害だけではなく、洪水や土砂災害でも当てはまる。たとえば、一九九八年から二〇〇〇年にかけて全国的に多発した洪水・土砂・高潮災害では、自治体の多くは避難勧告の発令の遅れがあったり、あるいは発令できなかったことが分かっている。これらは、的確な事前情報の把握が困難だったこと、避難勧告を出すタイミングを判断できる行政のトップとその周辺の関係者の能力が低かったことに大きな原因がある。博多の地下街浸水や新宿区の地下室水没で犠牲者が発生したが、この分野の防災の必要性が行政機関にやっと認識されたというのが現状である。また、これらの災害で、被災者が高齢者で屋内で被災するという事例が急増しており、この事実はやはり事前情報の重要性を明らかにしている。

わが国で災害応急対応がうまくいくための条件とは、1]準備時間がある、2]予算がある、3]法律や条例として文章に書かれている、4]任務・役割分担がはっきりしている、及び5]人員と指揮者がいる、の五つと言われている。これらのどれ一つも不具合だと危機管理できないことになりかねないが、柔軟に対応してこそ危機管理といえる。準備期間を短くするには、一つは訓練であり、もう一つは仕事の流れを再検討し、無駄を省く努力である。予算については、今回の震災で支出した費目と経費を被災自治体が明らかにすることがまず必要である。文章に書かれているかどうかは、それが問題になったか、問題として考えられているかどうかによる。将来出てくるかも知れない被災シナリオ、たとえば、河川の洪水・内水、高潮、津波の市街地氾濫と地下空間水没に対して先手を打って対策を明文化しておくことが重要であろう。

なお、情報からみた震災後の三つの課題として

1 震災直後に情報が不足していたことによる弊害

2 被災者が必要としていた情報の欠如

3 震災前の広報・啓発活動の不足である。

まず、1が原因となって、1]行政の対応遅延、2]災害規模の把握の遅れ、3]被災者の初期行動の混乱、4]多様な被災者必要情報への対応不足による弊害、5]救助・救出活動の遅延(電話回線の輻輳)、6]交通渋滞の発生である。

つぎに2に関しては、被災者が必要としていた情報は、震災直後から時間とともに変化していった。行政・マスメディア等による情報収集・発信が十分に機能していなかったため、被災者の情報ニーズの変化についていくことができなかった。これらの不足は、口コミ、張り紙、ミニコミ紙、パソコン通信等によってある程度カバーされたが、仮設住宅が先着順で決まるというデマが飛び、早朝から列ができるなどが起こった。また、全壊した世帯では、家をどうするかを震災後四日以内にほぼ意思決定しているが、この時点では行政からは住宅情報はおろか仮設住宅に関してもほとんど情報が発信できていない。

さらに3に関しては、もし、事前の広報・啓発活動があればカバーできていた項目は、多岐にわたる。近年、水防団が消防団に吸収された結果、とくに都市に住む市民の中に、水防活動は都道府県の仕事だと錯覚している人が圧倒的に多い。自治体全体にわたって、地震防災に熱を入れるあまり、風水害対策が手薄になっており、その隙を突かれて被害が拡大している。

 

参考文献

河田恵昭‥震災直後の対応および情報の問題点、土木学会誌、二〇〇〇年一月号、pp.38-39°

河田恵昭‥アジア地域防災の適性水準、土木学会誌、一九九九年九月号、pp.21-26°

河田恵昭‥阪神・淡路大震災に学ぶ危機管理、(社)地方行財政調査会、講演シリーズ七四、pp.62' 二〇〇〇。

 

 

 

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