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二 災害の危機管理の基本

災害や火災の危機管理をやれるかどうかは、まず、自分が個人生活を管理できているかどうかを考えてみることが出発点になる。たとえば、家族の誰かが交通事故に遭ったとき、あるいは病気になったときどこの病院に連れて行けばよいのかは大切な危機管理である。親の死をどのように迎えるのか、最後に自分の死をどのように迎えるかも危機管理の対象である。これらがおぼつかないようであれば、仕事として災害や火災の危機管理をうまく実行できるわけがないだろう。逆に、仕事としての危機管理がうまくできれば、その習熟は個人の人生をうまく生き抜く強力な手段となり得るだろう。

このように、危機管理の基本とは、いかに『災害に想いを馳せることができるか』ということである。災害の起こり方や被害の発生シナリオに対する貧困な想像力は、それ自体がもう被害激化要因である。そして、自然災害の防災・減災は三つの『知る』から構成されている。すなわち、災害の起こり方を知る、弱いところを知る、対策を知る、である。また、防災体制の基本は、自分の命は自分で守る、まちの安全はみんなで守る、地域のインフラ整備を連携で進める、であり、それぞれ自助、互助、公助に対応している。

 

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図1 リスクマネジメントの基本

 

表2 火災のリスクマネジメントの内容

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表3 火災のクライシスマネジメント

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三 危機管理の時計モデルと消防への応用

危機管理は、発災前を対象とするリスク・マネジメントと発災直後からのクライシス・マネジメントから構成される。前者には構造物による被害抑止と情報による被害軽減が含まれる。前者は、コンクリートや鉄という素材が使われることが多く、ハード防災と呼んでいる。一方、後者は形のないもの、たとえば防災教育や訓練、教訓、ボランティアなどであって、ソフト防災と名付けている。図1のような組み合わせによって、とくに想定外力よりも大きな場合、ソフト防災が重要となろう。そこで、都市直下地震が発生し、同時多発火災が起こった場合、それぞれの内容を表2に示した。項目の細かな説明は字数の制約があってここでは行わないが、このように整理できることを知っておくことは重要である。

クライシス・マネジメントには、緊急対応と復旧・復興が含まれる。前者は生命の安全確保を最優先したものである。後者は、生活と地域の再建を目指している。大規模な火災の発生は、クライシス・マネジメントの困難さに直接結びつく。火災の場合を表3にまとめてみた。

ただし、地震時の同時多発火災に本当に消防が対処できるかどうかを考えると、答えは不可能と言わざるを得ない。たとえば、大阪の中心部を南北に走行する上町断層による地震が発生すれば、大阪府下で一〇〇〇件の火災の発生が想定されている。

 

 

 

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