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危機管理体制のあり方と消防への応用

京都大学防災研究所 巨大災害研究センター センター長・教授 河田恵昭

 

一 災害のグローバリゼーションの進行

阪神・淡路大震災のあと、国や自治体の多くが地震防災を積極的に進めるのをあざ笑うかのように、一九九八年以降、洪水・土砂・高潮災害が全国的に頻発し、風水害対策の重要性を改めて認識させた。風水害の激化現象はアジアモンスーン地帯の多くの国でも経験しており、いよいよ地球温暖化の影響が台風・ハリケーン・サイクロンの巨大化、頻発化、そして集中豪雨の激化という形で表れ始めたと考えてよい。表1は、自然災害による被害が近年、アジアに集中してきていることをはっきりと示している。わが国で起こっていることが近隣諸国でも起こっていることをはっきりと認めるべきであろう。しかも、同じことが全世界でも起こりつつあり、いわば、災害のグローバリゼーションともいうべき現象であると言える。

このような自然外力の変化傾向のなかで、都市を中心に、そしてその対極として過疎地が大きな被害を受け、わが国では同時に社会の高齢化がさらに進行し、被災過程を複雑に、復興を困難にしてきている。二一世紀のわが国の災害環境は、都市化、過疎化、高齢化によって特徴づけられ、ますますその対応、すなわち危機管理が困難になっていく宿命のようなものがあると理解してよいだろう。二〇〇〇年に発生した、有珠山と三宅島・雄山の噴火災害、東海豪雨災害、鳥取県西部地震災害の災害対応、復興はどれもはかばかしく進んでいない。そこでは、一見、災害対応が順調に進んだかのように見えるが、それは錯覚であって、単に死者が少なかったから、あるいは発生しなかったからに過ぎない。

わが国の防災体制がいかに薄っぺらなものであるかは、たとえば一九九九年の台風一八号が来襲した八代海沿岸の惨状が証明している。沿岸の町役場の庁舎のガラスの多くは、飛来物によって破られ、暴風雨が吹き込んで室内は惨憺たる有様であった。東海豪雨では愛知県西枇杷島町の町役場が一・五mも冠水してしまった。これでは災害対策本部もすぐには立ち上げられない。このことを考えると、台風常習地帯や洪水氾濫原に位置するほかの防災関係機関、たとえば消防署や警察署では、浸水対策が進められ、窓ガラスは強化ガラスや網入りガラスが使われているのだろうかと、心配になってくる。大体、台風常習地帯や洪水氾濫原に位置しているかどうかの判断もおぼつかなくなっているのが現状ではないだろうか。

 

表1 アジア地域の自然災害

(カッコ内の数字は世界に占める割合)

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