火災
約三〇〇年前から続く老舗の旅館火災
米沢市消防本部(山形)
はじめに
米沢市は、山形県の最南端に位置し、東に奥羽山脈、南に吾妻連峰の裾野に広がった盆地に位置し、上杉藩の城下町として栄えてきた歴史がある。
気象条件は、多雪地帯であるが災害は盆地という地理的条件に恵まれて比較的少ない。
管内面積は五四八・七四km2、人口九万四千人で、一本部・一署・一分署・三出張所に職員一〇四名が防災の任務にあたっている。
ここに紹介する事例は、標高九〇〇mにある白布温泉で、天元台スキー場・白布大滝・山岳観光道路西吾妻スカイバレーの起点が近くにあり、特にスキー場は、全国的に知られ多くのスキーヤーや観光客で賑う温泉街にある老舗旅館《白布の顔》三旅館の内、二軒が全焼した火災である。
一 火災概要
(1) 出火日時 平成一二年三月二五日(土) 調査中
(2) 出火場所 米沢市大字関一、五三四 A旅館
(3) 類焼 米沢市大字関一、五三七 B旅館
(4) 覚知時間 一七時〇六分
(5) 鎮圧時間 二一時一〇分
(6) 鎮火時間 一時三〇分(二六日)
(7) 気象状況
天候雪、気温零下〇・三℃
湿度九二% 積雪六〇cm
風向南西、風速一・二m/s
(8) 被害状況
全焼 二棟
焼損面積 三、二九八m2
損害額 三六二、〇五六千円
負傷者 三名
(9) 出火原因 調査中
(10) 出動車両及び人員
本部・署 一三台 七八名
消防団 二二台 三五二名
二 罹災建物概要
罹災した建物は、開湯七〇〇年という長い歴史の重みをここに残す、約三〇〇年前の木造建物である。茅葺き屋根の老舗旅館が軒を連ねていた風情は、近代化が進んだ今日では大変貴重な存在になっており、訪れる人々に感動を与えていた。
三 活動概要
出火場所は、最も近い南部出張所からも一六km・本署から一九kmと離れた高地に位置した上、気温零下五℃位、また、周囲の積雪が二m程あった。消防車両はチェーン装着しているものの山間部特有の吹雪に阻まれ走行にも困難をきたす気象条件の中、南部小隊が現場到着するまで二六分もの時間を要した。また、雪で足元が覚つかない状況のもと消防職・団員の必死の消火活動が功を奏し、C旅館への延焼は食い止めたもののA旅館・B旅館は全焼し、一瞬のうちに貴重な財産を失うこととなった。
(1) 出動途上の状況
三月二五日一七時〇六分『白布温泉A旅館火災です。』との一一九番通報を受けタンク車三台、ポンプ車二台、救急車二台、救助工作車が出動した。通信指令室の情報をもとに、長時間の消火活動を要すると判断した中隊長は、第二出動を発令、非番職員及び地元消防団を非常召集した。先着の南部小隊は、火災現場から約四〇〇m手前で山間の空を覆う大量の火煙を視認した。更に接近するにつれ雪間にA旅館全体が火炎に包まれ、隣接する東側B旅館にも延焼している現場状況を確認した小隊長は、直ちに中隊長に第三出動を進言した。