(2) 過剰酸素雰囲気下での火災
平成一一年三月鉄鋼関連工場の地下ピット内で過剰酸素雰囲気下での発火事故により作業者一名が死亡、二名が火傷を負う事故が発生した。作業者は当該ピット内での水配管工事中に誤って隣にあった酸素配管に穴をあけた。このときに約六〇〇m3の酸素がピット内に噴出した。作業者は一旦ピットから退避したが、約一時間後酸素配管の穴を補修するためにピット内に入り溶接しようとしたところ着衣等が急激に発火した。ピット内に噴出した酸素を空気で置換していなかったことと火災の状況から、ピット内には酸素が残留し火災のおきやすい状況であったと推定される。酸素は支燃性のガスであり物を激しく燃やす性質を持っている。空気中に約二一%含まれるが、この濃度が高くなると爆発的に物を燃焼させる。この事故も溶接の火花が着火源になり着衣等を爆発的に燃焼させたものである。
ガスは液体、固体よりも拡散しやすいが、この事故のように開口部はあっても半閉鎖的な場所では自然換気だけでは空気との置換は十分に行われないため、必ず強制換気を行うことが必要である。
(3) CEの破裂事故
平成四年八月、食品工場に設置されていた液化窒素CEが破裂、同工場が半壊し、発災CEを中心に半径四〇〇m以内の二五棟の窓ガラス、シャッター、外壁、乗用車、電柱等が損壊、近隣約一八〇〇戸が停電する等の被害をもたらした。また、破裂したCEの破片は最大約三五〇m飛散するという状況であった。
発災CEは事故の発生する約二ヶ月前に液化窒素を充てん後は消費が行われておらず、日常管理も皆無の状態であった。事故後弁の調査結果によると、当該CEの安全弁元弁が閉止、その他弁の状況から発災時には完全な密閉状態にあり、貯槽内の液化ガスが気化し内圧が過度に上昇して破裂に至った。通常この安全弁元弁は開の状態で貯槽の圧力が異常に上昇する前に安全弁が作動・ガスを放出するようになっている。液化窒素、液化酸素等の低温の液化ガスは気化すると、元の容積の約六〇〇〜八〇〇倍の容積になることから、低温の液化ガスの貯槽、配管は液封状態にならないよう安全装置を設置し、弁類を適正な状態に維持しておくことが重要である。
(4) モノシランガス容器交換中の爆発事故
平成八年一二月半導体製造工場でシリンダーキャビネット(C/C)内のモノシランガスが漏洩・充満し爆発、作業員一名が死亡する事故となった。作業員がC/C内モノシラン容器二本のうち一本を交換したが取り付け不充分なまま、当該配管系の気密試験を開始した。この気密試験は自動制御により試験開始から一二時間後の圧力差が〇・五kgf/cm2以下で合格となるが、気密試験開始時に圧力がほぼゼロに近い状態であったため、一二時間後漏洩箇所があるにもかかわらず、気密試験は合格と判定、モノシランガスの容器元弁が開けられ、ガスが供給された。このとき、接続不充分であった袋ナット箇所からモノシランガスが漏洩、C/C内に充満後発火、爆発に至った。事故原因はこのような誤操作に対応できない設備の設計・構造上の不良、容器交換時の作業員の点検不備とされている。また、モノシランガスは空気中に放出されるとすぐに自然発火する性質を有しているが、この事故のように漏洩量が多く、ガスの噴出速度が速いとすぐに発火せず滞留した後爆発することがあり非常に危険なガスである。漏洩検知警報器が鳴っていてもうかつに漏洩場所には近寄らないようにしなければならない。またモノシランの他にも半導体材料ガスには自然発火性、自己分解性のガスや毒性の極めて高いガスが多く、緊急時における措置は空気呼吸器等の保護具や機材を整え、専門家が対処することが望ましい。