次はもっとひどい牛の涎。勢って肩に力が入りすぎると挿入句が長くなり易く、その結果一文が長くなり、文の進むべき方向を書き手が見失いがちになる。
…「育てるということは、その人がそれぞれ持って生まれた能力や各個人が勉強により取得した知識・技能をいかに消防職員として、それぞれが自己啓発により資質の向上に努めることは基より、管理監督にある立場の者が、部下の能力の育成をすることは、重要な一つであるが、育てるには、どうなすべきかということは、非常に難しいことである。
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…「育てる」ということはその人が取得した知識・技能を消防の組織に生かせるようにすることである。そのためには管理監督の立場にある者が部下の能力を伸ばさなければならない。これは重要な一つであるが非常に難しい。
(C) 必ず常体で書く。
論説文は常体で書く。これが常識である。書き手が男性であろうと女性であろうと論説文は常体で書く。常体とは「…だ」「…である」といった、ぶっきらぼうな言い方の「だ調」「である調」といわれる文体である。消防庁の初級幹部研修での提出小論文では毎回一〇パーセントほどが敬体(です調・ます調)または常体と敬体の混在した文体不統一の文体である。
四 出題の意図を見抜こう
文章を綴る手順は次のように考えるとよい。(1)題意を考える。(2)出題の意図を見抜く。(3)文章核を決める。(4)素材を集める。(5)素材を点検・選別する。(6)文章の構成法を決める。(7)叙述の順序を決める。(8)文体を確認する。(9)ペンを走らせる。(10)推敲する。
この中の(2)に無頓着の人が案外多い。消防庁の初級幹部研修で「育てる」という課題に取り組んだ人の中に盆栽・子育て或は少年野球やサッカー等々を育てる苦楽や方法を述べて、それで完結させている人がこれまでかなりいた。はじめて部下を持つ司令補の研修で「育てる」という題の小論文を課す。これに対してなぜ部下育成に思いが及ばず、盆栽づくりや子育やスポーツ少年の指導を論ずるだけで完結させるのか。出題者の意図を推察すれば自ずと部下育成を主とした論述になるであろうに…。出題者の意図を推察し、見抜いた上で論述の方向と内容を決めるとよい。
五 効果的な文章構成法を
せっかくの料理も盛付けを誤ると食べる人の満足は得られない。盛付けに相当する文章の構成法は幾つもあるが、ここに六通り挙げるので、論述の内容を生かすにはどれが最も効果的か考えて決定するとよかろう。
(A)三段方式=序論・本論・結論の三つの部分で構成。(B)四段方式=起・承・転・結の四つの部分から成る。起は主題を提起し、承は主題を発展させ、転は意図的に主題から話題を転換し、結は再び主題に立戻って全体を結着させる。(C)頭括式=本来序論に当たるところに意識的に概括的結論をもってくる方式。(D)尾括式=序論の部分で主題に対する疑問を提示し、本論で用意しておいた素材を使って論じ、それを利用して結論へ導く。(E)両括式=初めに結論を提示し、その後で具体的事例を挙げながら論証し、文章の終末部で再び初めに示した結論に立戻って文章全体を締めくくる。この方式は結論が二回示されるので書き手の伝えたいことがはっきり伝わり易い。(F)列挙式=これには序論・結論に当たるものが無く、主題に合致する事例を列挙していく方式。書き手は結論らしいものを明らさまには示さないが、読み手が読み進むうちに、書き手が考えている結論に自然に導き込む方式。
六 おわりに
もともと厖大な紙数を要する内容を僅か七千字ほどに収めるのだから無理があった。そこでさらりと一般論を述べ、私の講座で研修された諸氏の論述を意識し、共通する欠点の防止、除去を意識してのこの論述であった。資料として使わせていただいた作品の執筆者には深い感謝を捧げたい。
なお以上の論述は論説文執筆に限らず、会議・討議討論・説諭等々の場合にも活用できることを付言して置きたい。理論がわかったらそれに則って、とにかく書き馴れて欲しい。