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救急業務は人命の安全・救助を第一義としている。自然災害は原因者が存在せず、対策の第一次責任は市町村である。事故は、原因者に被害防止・拡大阻止・再発防止の責任を求めるが、原因者から救助機関、監督機関への速やかな事故通報・救助要請と、原因者の被害者にたいする損害賠償責任が出てくる。事故の実態が早急に把握され、適切な事故対策がとられなければならない。航空機・船舶・事業所の構造や、乗客・作業員の状況、さらに危険物の積載の有無などの情報と対応策が求められる。地震以外の自然災害は科学技術の進歩により実情把握がかなり容易で、その警戒体制がとれている。しかし、人工衛星の落下や今回の東海村の原子力発電関連の事故のような天災・人災がある。いずれにせよその安全性の点検手法の再点検と改善が重要である。事故災害は被害が地域に限られ、被害程度が重大・激甚であるが、一過性的特徴がある。これにたいして自然災害は住民の生活本拠を奪い去り、多数の住民を避難救護施設に収容して、その生活維持を継続的・長期的にはからなければならない(特別措置法による被災地全体の生活再建の財政的救護)。事故災害は人命救助を中心に、消防、警察、時には自衛隊、海上保安庁や近隣住民の協力・応援をえての短期の救助活動が通例である。

 

四 救急業務の効率的出動体制

救急救助活動は、現地や現場の担当官が責任をもって、自己の経験判断・信念に基づき組織的になされる必要がある。そのため業務責任の範囲や指揮系統の明確化、時には大幅な権限委任がもとめられる(現地主義)。中央の災害対策本部(本部長)、とりわけ災害現場との敏速な調整、つまり、災害現場の的確な情報にもとづく救急業務の万全な確保が必要である。今日、電気通信方法が一般的であるが、停電等の通信途絶の対策はどうか。阪神大震災によって、災害時の救急医療の在り方が問題となった。被災地の病院の機能喪失、情報伝達の途絶で、救急搬送は麻痺したこと、自治体も自衛隊もヘリコプター出動が十分でなかった。大災害の救急医療は最初の四八時間が山である。とすれば、このたびの救急搬送は明らかに失敗であったろう(杉本侃・救急医療と市民生活・一九九六・二ページ)。救急業務のソフト面とハード面の再点検・整備は、地震国日本の緊要課題とされる所以である。人命救助を目的とする消防、警察機関は、緊急消防援助隊、広域緊急援助隊が創設されている。自衛隊法施行令の改正、防災基本計画の改定により、危険管理の初動体制の迅速化が図られること。また災害被害は初期段階で早急に「評価」されること。官邸・所管省庁(自然災害の場合は国土庁、事故災害の場合は安全規制担当省庁)への連絡―情報集約的報告は政府の支援体制の確立の条件となろう。各種災害救急隊の結成・組織的連携・活動が確保されるための条件の日常的整備がもとめられ、災害時の患者の標示、搬送・引継ぎが的確に行われ、または災害現場に救護・避難所を設置し、救急医師を配置し、現場指揮本部と連携して救急業務の万全を図ることが必要である。自然災害・事故災害ともに、二次災害防止のため危険情報を収集管理して、それを生かすべく中央本部・医療機関と連携を密にしなければならない。傷病者の応急手当て(とくに救急搬送中に救急隊員・救命士は救急患者の状況を救命センター・医師に無線連絡して、その適正な指示により救命措置をとること)は、救命技術の必要な講習を条件として消防団員に救命士の資格取得の道を開くべきであるし、ドクターカー増配置による二四時間的救急医療体制の整備が必要とされている。

 

 

 

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