A消防本部は、第二回爆発後、アルミ倉庫から半径二〇〇m以上の警戒体制をとった。
火災は、午後二時頃、ほぼ鎮火状態となり、午後二時一九分頃鎮火した。
本件爆発及びその後の類焼により、負傷者は重傷一名、軽傷二二名の合計二三名(そのうち、A消防本部の消防隊員は重傷一名、軽傷二名、消防団員は軽傷一二名)であった。
本件火災により、原告らの建物住宅七棟、約一二八〇m2が全焼し、非住居一棟一五二m2が半焼し、車両五台を焼失した。また、本件爆発により、付近の住宅約二二八世帯等のガラス約一二七六枚が破損し、アルミ倉庫を中心として半径約五二〇mに全体的に北東側の被害が広範囲に及んだ。
第五 本件爆発の原因についての裁判所の判断
以上の事実や証拠調べから、本件爆発の原因について、裁判所は次のとおり判断している。
本件爆発の原因については、火災により、溶解したアルミ屑に消火のための水が接触し、アルミと水との急激な化学反応による酸化還元反応熱及び水素ガスの発生による着火爆発、又は水が急速に熱せられたために生じた熱移動型の水蒸気爆発であると認められる。
第六 争点についての裁判所の判断
一 争点一(失火責任法の適用)及び争点二(A消防本部の責任)についての裁判所の判断は、次のとおりである。
(一) 前記の認定によれば、本件爆発の原因は、A消防本部が午前一時過ぎころまでアルミ倉庫内部に注水をしたため、水がアルミ屑と化学反応を起こし水素爆発を起こしたか、あるいは熱せられた水が水蒸気爆発を起こしたものであると考えられる。
(二) 本件爆発の原因であるA消防本部の注水行為について失火責任法の適用があるか検討するに、失火責任法にいう失火とは、「誤テ火ヲ失シ火力ノ単純ナル燃焼作用ニ因リ財物ヲ損傷滅燼セシメタル」ことをいうから(大判大正二年二月五日民録一九号六一頁参照)、火を失した者が延焼の過程でガスなどを誘爆させた場合と異なり、本件のように、当初の失火とその後の延焼に至る因果の過程から別個独立した第三者の行為があって初めて爆発と爆発自体による財産的損害が生じた場合には、右第三者の行為は失火にあたらないというべきである。
したがって、本件におけるA消防本部の注水行為には失火責任法の適用がないというべきである。
(三)ア 消防法二五条によれば、火災の現場においては、消防吏員又は消防団員は、当該消防対象物の関係者その他命令で定める者に対して、当該消防対象物の構造、救助を要する者の存否その他消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のため必要な事項につき情報の提供を求めることができると規定する。
イ アルミニウムは、熱水と反応しやすく、熱を分解して水素を発生させること、特にアルミニウム粉は、火源が存在すれば比較的短時間で着火、独立燃焼を始め、これに水をかけると激しく反応し、発生した水素ガスが爆発的燃焼を起こすこと、アルミニウム火災の燃焼速度は比較的遅く、初期の段階で正しい反応をすれば大事に至らないこと、消火方法は、液体洗剤による冷却消火、乾燥砂、塩による窒息消火が適当であり、それ以外としては、自然鎮火を待つべきであり、注水は危険であり行うべきでない消火方法であること、アルミニウムのような活性金属火災に対する消火方法は、消防学校の初任課で学習する内容にあり、消防署員の必修事項であることが認められる。
ウ したがって、一一九番通報の内容、燃焼物件の観察、周囲の者に対する事情聴取等によって、燃焼物件が金属屑であることが判明した場合には、注水に適さない燃焼物件である可能性があることを察知し、注水が安全か否かを確認するまではこれを中止すべき注意義務があるというべきである。
(四) これを本件についてみるに、前記認定のとおり、A消防本部の職員は、Y会社が火災現場において廃品回収業を営んでいることを事前に知っており、本件失火の際にも、第二小隊の隊員は、アルミ倉庫に金属屑が山積みされているのを現認し、また、本件消防本部の職員は、Hから、水蒸気爆発を起こす可能性のあるパーマが燃えている旨を聞き及んでいたのであるから、本件消防本部にこのような情報が集約されていれば、現場到着後比較的早い段階で、少なくとも金属火災の可能性を疑って、注水待機又は注水中止の指令がなされてしかるべきであったし、本件消防本部において金属火災との疑いをもってI等被告会社の者に金属屑の存否及びその種類如何と右具体的な質問を発して事情を聴取し、あるいは燃焼物件の確認を慎重に行っていれば、大量のアルミニウム屑の山から出火していることを容易に知り得たというべきである。