Iは、他の従業員とともに、四本の消火器で消火しようとしたが、消火に至らなかった。
M社長は、従業員に対し、一一九番通報を指示し、従業員は、午前一〇時四一分、一一九番通報をし、A消防本部に対し、Y会社の小屋が燃えたとだけ告げた。
七 注水開始
(一) A消防本部は、第一ないし第三小隊を出動させ、M消防長、K補佐を乗せた指令車及び第二、第三小隊は、午前一〇時四三分頃現場に到着した。
(二) T中隊長は、第二小隊に対し、注水を指示した。第二小隊は、同四四分頃、アルミ倉庫南側外壁を破壊し、ここからアルミ倉庫内部に注水した。第二小隊の隊員は、このとき、アルミ倉庫内に金属屑が山積みされていたことを確認したものの、これを中隊長に告げることなく注水を行った。
(三) 第三小隊は、Y会社西側入り口から入り、アルミ倉庫の北側から注水し、第一小隊は、午前一〇時四六分頃、現地に到着し、アルミ倉庫東側の畑から注水した。
八 現場の目視及び事情聴取
(一) K補佐は、現場到着後すぐにアルミ倉庫北側から内部を見分したが、黒煙及び炎がアルミ倉庫全体に広がっていたため、燃焼物件の種類を明確には確認できなかった。
(二) A消防本部の職員は、午前一〇時四三分頃、現場に到着し、警察官と共にアルミ倉庫前に行き、Iに対し、危険物の有無について尋ねたところ、ないと答えた。職員は、Iについて、燃焼物件の種類について尋ねようとしなかった。
(三) Hは、消防隊員が最初に到着したころ、A消防本部の職員に対し、「パーマが燃えている」といい、さらに水蒸気爆発を起こす可能性があることを示唆した。
(四) T中隊長は、注水開始後、Y会社従業員に対し、燃焼物を尋ねたところ、従業員は、段ボール、廃車から取り出されたガソリン、軽油などの廃油関係であると回答した。
九 小爆発及び直接注水中止
(一) 午前一一時すぎ頃から、アルミ倉庫南側から、黒煙の中に黄色味がかかった煙が吹き出し、溶岩のようなどろどろした物体が、地面一帯に流れ、時々周囲数mに飛び散った。T中隊長は、この様子をM消防長に伝えた。
(二) T中隊長は、アルミ倉庫に対し注水活動を行っている第二、第三小隊隊員に対し、出火点周囲には注水せず、アルミ倉庫南側住宅への延焼防止防御に当たるよう指示した。第一小隊員も、注水中に、「パン」という小規模爆発音及び三〇から四〇cmの大きさの蒼白い炎を数回確認したので、途中から、出火点への直接注水を中止し、周囲への注水に切り替えた。
(三) M消防長は、午前一一時五分頃、各小隊長及び中隊長を、現場本部に呼び寄せ、出火点付近から小規模の爆発現象が起きているため、消防職員の安全確保のため注水位置を後退させ、アルミ倉庫出火点への注水を中止させ、出火点周辺すなわち周辺建物への冷却消火を指示した。
一〇 第一回爆発
午前一一時二三分頃、第一回爆発が発生し、溶解燃焼中のアルミの塊が周辺に飛散し、周辺家屋が延焼し始めた。
A消防本部は、第一回爆発後、アルミ倉庫から半径一〇〇m以上の警戒体制をとった。
一一 消防当局の対応
M消防長は、T中隊長らに対し、爆発の原因は熱せられた金属粉又はアルミが水と化学反応を起こし爆発したものであることを伝え、消防職員の安全確保及び見物者の避難を命令した。
第一小隊から第三小隊は、第一回爆発により類焼したアルミ倉庫南側の建物の消火にあたった。
午前一一時五〇分、五二分頃の二回にわたり、第二回、第三回爆発が発生し、大音響とともに火柱があがり、第一回爆発と同様溶解アルミの塊が爆風と共に付近一帯に飛散した。