にもかかわらず、K補佐は、Y会社の従業員に対して危険物の有無を尋ねるだけで、燃焼物の種類について説明を求めなかった。
アルミ火災の場合に絶対に水をかけてはならないことは、消防学校の初任科研修の講義内容にあり、消防職員にとっては常識的知識といえる。M消防長は、過去にトンネル内での車両火災の際に、アルミの窓枠がトラックに積まれていたので自然鎮火を待った経験を有していたから、A消防本部では、アルミ倉庫に大量のアルミ屑が保管されていることを認識していれば、これに対し注水することは爆発を誘引する危険なものであることを容易に認識できた。
しかし、A消防本部は、これらの義務を怠り、安易にアルミ倉庫内に大量の注水をした結果、本件爆発事故を誘発させたもので、その過失責任は明白である。
(二) A消防本部は、注水開始から第三回爆発までの間、アルミ倉庫に向けての注水を継続していた。M消防長は、各隊長に対し、遠方からアルミ倉庫の屋根に向けた放物線上の注水及び倉庫内の未燃焼部分に対する注水を指示したもので、爆発回避という観点からは、無意味な回避措置だった。
四 争点二についてのA消防本部の主張は次のとおりである。
(一) Y会社のアルミ倉庫は、消防本部の査察対象物には該当していなかった。また、Y会社から危険物についての届出がなかったから、消防本部としては、Y会社の取扱物集積物の種類等についての情報を得ていなかった。一一九番通報も、一般建築物火災の通報だった。
(二) 次に火災が発生した段階では、切削油がアルミ屑に付着していることを目視確認することは困難だった等と主張した。
五 争点三は、Y会社の責任についてである。
(一) 原告の主張は、Y会社はアルミを適切に管理すべき義務があるのにアルミ屑等を山積みにし、管理義務を著しく怠り、防火訓練も実施してなく、重大な過失がある。
(二) Y会社の主張は、安全に配慮した適切な管理を怠っていたという原告らの主張は争う、本件爆発は、誤った消防活動によるものであると主張した。
第四 裁判所が認定した事実
裁判所は、次の事実を認定した。
一 平成二年六月一二日は、晴、風向き二・五m、気温二六℃、湿度三八%の天候であった。
二 アルミ倉庫は、鉄骨造平屋建て、外壁はサイディング貼り、屋根は長尺トタン葺きである。
アルミ倉庫南側には、道幅約四・七mの道路を隔てたところに原告らの民家が軒をならべていた。
営業所の敷地には、数ヶ所に廃車や鉄屑が山積みの状態になっていた。
三 Y会社で収集する廃品は、廃車した自動車、タイヤ類、鉄屑、アルミ屑(アルミパーマ、アルミ切粉、アルミ粉、アルミ箔、アルミ削粉、切屑アルミサッシ類)等であった。
四 アルミが消防法上危険物として取り扱われるためには、目開きが一五〇マイクロメートルの網ふるいを通過する量が五〇%を超える必要があるところ(消防法別表備考第五号、危険物の規制に関する規則一条の三第二項)、Y会社の収集していたアルミは、消防法上の危険物に該当しないものであった。
A消防本部職員は、Y会社に出動や査察をしたことはなかったが、Y会社が廃品回収業を営んでいることは知っていた。
五 M社長は、昭和六一年頃、アルミ箔の収集を開始したとき、Iに対し、アルミ箔は水に触れると熱を持つから気をつけるように注意したことがあった。I自身も、平成元年の冬頃、雪が建物の隙間から入りこみ、プレスしたアルミ箔に付着し、そのままの状態でプレス機械に入れ、積み置いたところ、白い煙が発生し、熱を生じたことを経験した。
六 本件失火
午前一〇時頃、Hがトラックにアルミ切粉を引き取りにきたとき、Iがアルミ倉庫内で、ショベルローダーでアルミ切粉をトラックに積み込むことにした。午前一〇時三〇分頃、Iがショベルローダーを後方に移動させたところ、アルミパーマの山が崩れ、ショベルローダー右側のバッテリー上に落下し、バッテリーがアルミパーマで埋まってしまった。このとき、バッテリーのショートで発火し、切削油が付着したアルミパーマに引火させた。当初の炎は、蒼白い色を放ち、薄い煙を出していた。