「爆発火災」に関する判例
爆発火災による判例を紹介する。(山形地方裁判所、平成一一年一二月七日判決、判例時報一七一三号九九頁)
第一 事件の概要
一 この事件は、大量のアルミニウム屑が保管されていた廃品回収及び再生資源卸売業を主な営業内容とする会社(以下「Y会社」という。)の倉庫で火災が発生した事件である。
この火災で、A消防本部の消防職員が消防活動をするにあたり、このアルミニウム屑に注水したところ、大爆発事故が発生し、近隣民家の住民が損害をこうむったとして、Y会社とA消防本部当局に対して、損害賠償請求してきた事件である。
二 本件出火の経緯は、次のとおりである。
(一) Y会社の従業員Iは、平成二年六月一二日、Y会社S町営業所のアルミニウム(以下「アルミ」という。)を保管する倉庫内(以下「アルミ倉庫」という。)で、ショベルローダーを移動させていた。その際に、アルミのパーマネント状の屑(以下「アルミパーマ」という。)が、ショベルローダーのバッテリーに接触し、バッテリーがショートしたことから発火し、これが原因でアルミ倉庫内で火災が生じた(以下「本件失火」という。)。
A消防本部は、Y会社からの一一九番通報により出動し、注水活動を開始した。
(二) 注水開始後の午後一一時すぎから、アルミ倉庫内で、爆発がくり返し発生し、午後一一時二三分、同五〇分、同五二分の三回にわたり大規模な爆発が発生した。そして、爆発音とともに炎の塊が付近住宅に飛び散り、住宅等が燃え始めた(以下三回の爆発を順次、「第一回爆発」、「第二回爆発」、「第三回爆発」といい、これらを総称して、「本件爆発」という。)
第二 争点
この事件で争点となったのは、
一 A消防本部の行為について、失火責任法の適用があるのか、
二 A消防本部は、消火活動にあたって、Y会社から、燃焼物の種類、危険物の有無について情報収集を尽くしたか、
三 本件失火について、Y会社に失火責任法の重過失があるか、
四 原告らの損害の額はどの程度か、である。
第三 争点に対する当事者の主張
一 争点一に対する原告らの主張は、次のとおりである。
争点一に対する原告らの主張は、本件被害は、失火によってもたらされたものではなく、A消防本部の注水による消火活動によってもたらされたものであるから、その消火活動の過失に失火責任法の適用はない。
二 争点一に対するA消防本部の主張は、次のとおりである。
当初の失火そのものが、火薬等の爆発による場合は、失火責任法が適用されないとしても、失火が通常の火災であり、その延焼の過程で誘爆させたのだから、失火責任法が適用されると解すべきである。
三 争点二についての原告らの主張は、次のとおりである。
(一) A消防本部のK消防課長補佐(以下「K補佐」という。)は、注水開始前に、本件火災現場に到着し、アルミ倉庫を見分していたのだから、山積み状態のアルミ屑が内部で燃焼していたことは、当然視認できたはずである。また、K補佐は、アルミ倉庫の西側に隣接する倉庫(以下「西側倉庫」という。)も見分していたのであるから、西側倉庫内に大量に保管されているアルミ屑を視認できたはずであるから、隣接するアルミ倉庫にも、アルミ屑が存在していることを疑い、Y会社従業員に対し、アルミ倉庫内部の燃焼物の種類について説明を求めるべきであった。
本件の燃焼物は、大量のアルミ屑であったから、K補佐及びM消防長が、Y会社M社長やY会社従業員に対し、適切な問いを発すれば、消火開始時点前後までには、燃焼物がアルミ屑であること及びアルミ倉庫には他にも大量のアルミ屑が存在していることが認識できたはずである。