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消防事件判例解説

全国消防長会顧問弁護士 木下健治

 

「救急車交通事故」に関する判例

救急車交通事故に関する判例を紹介する。(佐賀地方裁判所、平成九年一〇月二八日判決、福岡高等裁判所、平成一〇年一一月二六日判決、全国消防長会会報六〇〇号)

 

一 地裁による事実認定と判断

(一) 本件は、平成七年一一月三日午後四時四五分ころ、S市S警察署前交差点(以下「本件交差点」という。)で起こった事故事件である(図面参照)。

本件交差点を北進中の救急車と、同交差点を西から東に進行中の被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)とが、交差点内で衝突した。

被告は、本件事故当時、被告車の窓を閉め切った状態でカーステレオを聴きながら運転をしていたため、救急車のサイレン音が認識不能の状態にあった。

この事故発生場所は、K方面からN方面に向け、東西に走る国道H号線(以下「本件国道」という。)と、O方面からP方面に向け南北に走る道路(以下「南北道路」という。)が、ほぼ直角に交差する交差点である。本件国道は、片側二車線の道路であるが、本件交差点付近で右折用車線が分岐している。

(二) 本件事故当時、本件国道の信号は青信号であったが、本件国道の西行き車線は、交差点手前に車両が全て停止していた。一方、東行き車線は、右折車線の停止線を越え、前方右左折指示マーク付近を先頭として、大型トラック、ダンプカー等の車両が数台停止していたため、本件国道の東行き走行車線からは、前方の停止している西行き車線の車両及び南北道路の本件交差点南側からの本件国道西側への見通しは悪かった。

救急車の運転手は、救急車の警告灯を点灯し、サイレンを吹鳴しながら、救急車を運転して南北道路を北進し、本件交差点に差しかかった。しかし進路前方が渋滞していたため、反対車線に進路を変更して進行し、前方の信号が赤信号であり、進路前方交差点には本件国道を東進し、右折のため同交差点の右折停止線を越え右左折指示マーク付近まで進出して停止している大型トラック等を認めた。そのため、右大型トラックの右側(東側)まで進出して一時停止し、左右の安全を確認して徐行しながら北進しようとしたが、本件国道の東行き車線を青信号で進行してきた被告車前部に救急車左側前部を衝突させた。

被告は、本件国道の東行き車線の中央車線を、被告車の窓を閉め切った状態で、カーステレオを聴きながらサイレン音を認識しない状態のまま被告車を運転し、前車数台に続き時速約五〇キロで東進中、本件交差点に差しかかったが、前方の信号が青信号であり、左折のため停止中と思える車両一台を左側車線の前方に認めたが、先行する数台の車が交差点を走り去ったのに二、三m遅れて中央車線を通って交差点に進入したところ、南北道路右側車線を、前記右折のため停止中の大型トラックの東側から出てきた救急車に気付き急ブレーキを踏んだけれども間に合わず、被告車の前部を救急車左側前部に衝突させたものである。

このような事実の認定から、地裁では、救急車側七割、被告車側三割の過失割合を認めた。

 

二 高裁の判断

高裁は、次の判断を示している。

「被控訴人(注、一審の被告)が本件交差点に差しかかった際、緊急自動車である救急車がサイレンを吹鳴して交差点内へ進行していたのであるから、被控訴人としては、交差点を避けるなどして救急車に避譲すべき注意義務がある(道交法四〇条一項)ところ、前記認定事実によれば、被控訴人は、漫然とサイレン音を聞き逃したものと推認され、そのため、右注意義務に違反した過失があるというべきである。

 

 

 

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