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二 事故発生状況

県外から来た「山の会」会員六人は当日九時四〇分頃、渇水期で水量の少なくなった名馬谷川の沢を上流に向け出発した。

約一・五km(約二時間経過)歩いた地点で、高さ一三m弱の滝を目の前にするもさらに上流を目指すため、左側の崖を一〇m程度登ったところで、濡れた岩肌に足を滑らせ下まで滑落、胸部と腰部を打撲し動けなくなった。

このため、仲間の一人が下流の民家(事故現場から約五km)まで戻り、そこから一般電話で一一九番通報したものである。

 

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三 活動状況

救助指令により二署所から普通救助隊、消防隊、救急隊が出場した。

先着した消防隊隊長と普通救助隊隊長は、通報者から情報収集したのち、救急隊を加えた三隊で合同救助隊一隊(人員八人)を編成した。救助隊長は新たに編成した救助隊員に救急・救助資機材の搬送準備を指示し、消防車には連絡要員一人を残留させ、通報者と共に事故現場に向け一四時四〇分、名馬谷川を沢伝いに出発した。

沢は荒々しい石塊が点在し三〇分程登った付近には、約一五m弱の滝が現れ一瞬とまどった。滝の左側は、急斜面であるものの足場を確保しながら登れる状態にあった。しかし、要救助者を搬送する際周囲の状況からロープ設定が不可能な状況であり危険と判断、谷川を迂回するルートを探るため、現場付近に詳しい地元の案内人の応援を依頼するよう連絡員に無線で指示した。

更に、上流へ急ぐ隊員の前に立ちふさがる三〜四箇所の難所を乗り越え、一五時四八分事故現場に到着した。

要救助者は、仲間のウインドブレーカー等で保温され、滝壷の横に仰臥位で寝かされており意識清明で言語も明瞭だが、胸痛、腰痛等の主訴があり歩ける状態ではなかった。

隊員は、各負傷部位を固定処置した後、バスケットストレッチャーに乗せ搬送に耐えられるようフットレスを調整、ストレッチャー固定バンドで固定し搬送準備を完了した。救出方法の一つである防災ヘリ使用も考慮したが、上空は雑木等が滝壷を覆うように茂っているため二次的災害の危険性があると考え断念した。

 

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一五時五五分頃、要請した案内人が入山したとの報が連絡員から入り、合流地点まで徒手搬送するためストレッチャーの前後に牽引ロープと確保ロープを結着し、ストレッチャーサイド四カ所の取手に肩搬送用として小綱で肩バンドを作り、残る取手にも「山の会」会員が付き一六時〇七分下山を開始した。

搬送ルートはその都度決定し、滑りやすい川底で体勢を崩してストレッチャーを落とさないよう最大限の注意を払いながら一歩一歩確実に搬送し、一六時四七分案内人と合流。

救助隊長は、案内人の説明を聞き今後のルートとして沢沿いの道を搬送する事にした。しかし、実際に搬送してみると斜面にあるその道は、幅五〇cm〜一mと狭くけもの道に毛がはえた程度のものであり、その上雑草が覆い茂って確認もしにくいため、疲労の色が見える隊員が要救助者を乗せたストレッチャーを搬送するのは容易ではなく危険を伴うものであった。

 

 

 

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