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現場は国道左側に面した山腹で延焼中であった。直近に水利はなく、約百m先の谷川にポンプ車を水利部署させ、タンク車を火点直近に配置、中継送水による消火を行った。その後、地元消防団、自衛消防隊も到着し、程なく鎮火に至った。

ホース等撤収中に消防無線により、第一現場から約一二kmの位置にある鹿谷町本郷区で林野火災が発生し、火災出場指令があり収納もそこそこに消火隊二隊は第二現場へと急行した。

出火場所は同区の中央部、民家が隣接する雑木林を含む空地であった。出火原因は焚火の放置により延焼拡大したもので、枯草等が燃えており、すぐ近くの雑木林に燃え移ろうとしていた。

近くの防火水槽に部署し、これを一気にせん滅すべく防ぎょ活動中に、またしても、消防無線にて現場から約一四km離れた、平泉寺町平泉寺の山林火災の報に接し、タンク車を現場に残し、他の一隊は平泉寺の第三現場へと向かった。

第三現場は、同一山林内の上下二ヶ所から火の手が上がっており、その距離約五〇m離れており、状況から察するに飛火等の延焼拡大とは考えられなかった。

この現場は、杉の木が整然と植林されており、下草や枯れ葉が所々激しく延焼中でその火が盛んに杉の木に燃え移っていた。地元消防団は、上方の現場において既に消火活動中であり、署の二隊は下方の現場に火掛りをした。

後着した消防団二隊の応援もあって、火災は延焼拡大することなく鎮火に至った。

このような三件の連続、同時発生火災は昭和三六年当消防本部発足以来、初めて経験するものであった。当本部の活動要領にも想定されておらず、当務員は勿論、非番、週休者総動員にての活動となった。これらを取りまとめる指揮命令系統がうまく機能し、全ての火災を大過なく鎮火させることができた事は、これからの消防活動における大きな指針となり、糧となった。 (玉木憲治)

 

救急・救助

奥深い渓谷での滑落負傷者の救助事例

鳥取県東部広域行政管理組合消防局

 

はじめに

当消防局は鳥取県を東部、中部、西部の三行政区域に分割した、最も東側の位置にある一市三郡(一五市町村)で構成された組合消防である。管轄区域は総面積約一、五二〇km2、総人口約二五万人を有し、一局五署六出張所一分遣所を配置、職員二八九人の消防体制で地域住民の負託に応えるため日夜努力を続けている。

管内は昭和一八年の鳥取大地震、同二七年のフェーン現象により鳥取市を舐めつくした鳥取大火等数々の大災害の経験から、近代防災都市として生まれ変わりつつある。

古くは三十二万石の城下町鳥取市を中心に、旧藩主池田公が因旛の国として治め栄えた歴史があり、幼い頃から「因幡の白うさぎ」等の童話を聞き、「ふるさと」を代表とする数々の童謡を歌う情緒豊かな環境の中、日本海の荒海で捕れる「松葉ガニ」、地元が誇る「二〇世紀梨」等豊かな海・山の幸を食し、日本一の雄大な「鳥取大砂丘」に見守られながら育った人情味あふれる鳥取人気質そのままの土地柄である。

紹介する事例が発生した佐治村は管内の南西に位置し、単語の最後に付く五つの即ち、「し」でむらおこしを推進している。一千年以上の歴史を持っている因州「和紙」本県の特産品である佐治村の二〇世紀「梨」日本三大名石のひとつといわれる佐治「石」日本三大おろかばなしのひとつ佐治谷「話」国内最大級の天体望遠鏡で見る美しい「星」そんな自然界が創作した造形美の中で一瞬見せた険しさが滑落事故を発生させ、救出までに長時間を要した救助事例である。

 

一 事故概要

(1) 発生日時 平成一一年八月二二日(日)一一時四〇分頃

(2) 発生場所 八頭郡佐治村尾際地内名馬谷川上流

(3) 覚知時間 一三時五五分(一一九番)

(4) 現場到着時間 一五時四八分

(5) 救助完了時間 一七時四九分

(6) 要救助者の状況

六三歳 女性 滑落事故による胸部骨折、腰部打撲傷、顔面挫創

(7) 出場車両及び人員

八頭消防署指揮隊(広報車) 一台二人

〃 普通救助隊(ポンプ車) 一台四人

用瀬出張所消防隊(ポンプ車) 一台二人

〃    救急隊(救急車) 一台三人

 

 

 

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