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消防隊員の臭覚に関する研究

米国のプロジェクトチームは、長年消防活動に従事した消防隊員は臭覚がひどく減退し、それが個人にとって重大な危険となることもある、という研究結果を発表した。シカゴ消防局の消防隊員一〇二人の臭覚を測定したところ、その四七%以上が臭覚に異常があったという。

一般の人々の場合、臭覚に異常がある人の割合は、通常二%である。消防隊員の臭覚における欠陥は、勤続年数と直接に関連していると思われる。

プロジェクトチームのメンバーである医師のアラン・ヒルシュ氏とマリア・カラビンセンゾ女史は、消防隊員は日常的に危険な化学物質を吸い込んだり、高温に曝されており、それにより臭覚が損傷を受けていると指摘する。人の臭覚器官は保護されておらず、臭覚の皮膜組織は環境のダメージに弱いので、消防隊員の臭覚に異常が発生することは当然考えられることである。

また、消防隊員は現場で呼吸器を外しても安全かどうかを確認するために、天然ガスに混入されているエチルメルカプタンの臭気を嗅いだり、各種の神経毒を検出する作業を行っている。このために、消防隊員にとって臭覚の能力は特に重要である。

プロジェクトチームの各メンバーは、最初災害現場で呼吸器を着装していれば臭覚は環境の影響を受けないと推定していたので、呼吸器を着装して現場作業を行っている消防隊員は、着装していない消防隊員より臭覚に欠陥が生じていないかもしれないと考えていた。しかし、臭覚の能力は、呼吸器の使用と無関係であることが明らかになった。

この調査は、産業都市シカゴの比較的少数の希望者(消防隊員)を対象として行われたので、更に調査を継続することが必要であるという。

この種の調査には非常に多くの項目を考慮することが必要であり、消防隊員の技術と消防機器及び消防機器のメンテナンスに使用する各種材料の種類によっても結果は異なってくるかもしれない。

なお米国では、消防隊は一九九八年中に一、八〇〇万回以上出動し、訓練等を含む勤務中に消防職員、義勇消防隊員等合計九一人(前年九七人)の消防隊員が殉職し、八七、〇〇〇人(前年比二・五%増)が負傷している。負傷した消防隊員の内推定四、八三〇人(前年比一・七%増)は入院を必要としたが、その内数人は退職を余儀なくされた。

負傷した原因の一位は過労(三一・八%)、二位が転倒や落下(二二・九%)、三位が煙や火災生成ガスの吸入(一三・六%)で、これを化学物質や放射能の付着等(三・七%)と合わせると直接臭覚に障害を与える原因は一七・三%となり、これにより約一五、一三七人の消防隊員が負傷している。

そのほか、人が睡眠中に煙やガスの臭いに気づいて目が覚めるかどうかの研究も行われている。(ほのお一九九八年一二月号参照)

(文責 大野春雄)

 

 

 

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