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より親しまれる行政広報とは

広報メディア研究所代表 上野弘子

 

●はじめに

日本のインターネット人口が二、七〇六万人を超えたという。世帯普及率は一九・一%というから家庭の五軒に一軒がインターネットに接続していることになる(平成一二年度の通信白書より)。

ほんの五年前までは、ごく一部の限られた人々の間でのみ使われていた、この新しい通信手段は驚異的な勢いで拡がり、インターネット上のオークションやショッピングを利用すれば、不動産や宝石、高級外車から無農薬野菜まで、あるゆるものが購入できるようになった。知りたい情報も検索機能を使えばある程度までは入手でき、電話の代わりにE-メールで情報交換をする主婦や若者が一気に増加している。

IT(インフォメーション・テクノロジー)という言葉もおそらく今年の流行語大賞となるだろう。低迷気味の日本経済のなかにあって、情報関連産業と呼ばれる企業の成長は著しく、インターネットなどを使ったビジネスが、今後の経済の牽引役となるであろうと誰もが期待をもって見つめている。

まさに「情報」がキーワードと言ってよい時代だが、人々は本当に必要な情報をタイミングよくキャッチし、自らの生活に上手に活用できているのだろうか。朝起きてから眠るまで、常にシャワーのように降り注ぐ膨大な量の情報の中から、有益なものとそうでないものを見分けるだけでも至難の技である。ショッピングやグルメ、趣味などのジャンルでは、インターネットや情報誌などをうまく活用できていても、その他の情報、とくに行政からの情報となると、つい見過ごしがちなのではないだろうか。

私たちの生活の中に行政機関が発行している広報紙や各種パンフレットが浸透し、目標通りに活用されているかというと、疑問である。「堅苦しく読みづらい」「関心がもてない」「おもしろくない」…。行政から発信される広報物についてどう思うかと周囲に尋ねると、このような返事が即座に返ってくる。しかし、行政が発信するものの中にこそ、「健康」「環境」「教育」「税」「保育」「介護」など、日常生活に必要な役立つ情報が数多く含まれているのだ。

そこで、行政から発信される情報(広報活動)が、住民により親しまれるための課題について考えてみた。

 

●「広報」と「広聴」

広報とは、英語のPublic Relation(パブリック・リレイション)を訳したもので、略してPR(ピーアール)という。日本には戦後登場した比較的新しい言葉だ。PRというと「広告・宣伝」という意味に受け取られがちだが、こちらはadvertisement (アドバタイズメント)もしくはPropaganda(プロバギャンダ)と訳される。

「広告・宣伝」が商品やサービスなどの購買を消費者に訴えるワンウェイコミュニケーションであるのに対して、「広報」は情報を発信することにより、相手に理解してもらい、好感を抱いてもらうことをねらったツーウェイコミュニケーションである。一般に「企業広報」と呼ばれるものは、企業と消費者をつなぐ架け橋であり、「行政広報」は行政と住民をつなぐ架け橋ということができる。それ故に広報は、発信する内容に虚偽や誤りがあってはいけないというのが大前提である。

より効果的な「広報活動」を行うためには、同時に「広聴活動」も行う必要がある。

「広聴」とは、社会から何を求められているか、そのニーズに応えるにはどうすればよいのかを追究する作業である。発信した内容が相手にしっかりと伝わったかどうかをチェックすることにより発信の仕方の是非や、表現に関する反省やリニューアルのポイントなどが明らかになってくる。

 

 

 

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