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都会に病院、大学、研究所が集中し、その近郊に民間の企業が隣接していることがこれらの数に現れている。RIの使用形態によって密封されたRI線源と密封されていないRI線源(非密封)の二つに分けられる。

非密封のRI線源を使用する施設は教育機関(三一六)と研究機関(四二一)に多く、医療機関(八八)、民間企業(一〇七)では比較的少ない。密封線源は民間企業(一、八一八)とその他機関(一、〇三五)に非常に多く、医療機関(四九一)、教育機関(三二三)、研究機関(六一〇)でも利用されている。

非密封RIの主な使用線源は32P(年間出荷数量:1043ギガベクレル(GBq=106Bq))、125I(640GBq)、63Ni(629GBq)、3H(596GBq)、35S(353GBq)、14C(351GBq)、85Kr(163GBq)、51Cr(145GBq)であった。32P、35S、14Cは生化学系で使用され、教育・研究機関に多い。63Niと85Krは密封線源化して民間機関で多く使用されている。125Iは研究・民間機関で多く使用されている。非密封RI施設では、取り扱う個々の数量が少なく、また、取り扱う多くの核種がβ線を放出する核種か比較的エネルギーの小さいγ線放出線源であるため、それによる外部被曝線量は非常に小さい。むしろ吸入による内部被曝に注意を要する。

密封RIの主な使用線源は、60Co(年間出荷数量:132×106GBq)、137Cs(1.257×106GBq)、192Ir(0.535×106GBq)、169Yb(2.22×103GBq)、85Kr(1.27×103GBq)である。民間企業での利用が圧倒的に多い。

β線を放出する核種63Ni(370MBq)はECDガスクロマトグラフ分析装置に装備されている。これは大気や水中の微量な有害物質の分析のため水質試験所などで多く使用されているが、外部被曝をほとんど気にしなくてもよい放射線源である。

一個の線源の放射能が3.7GBq以下の場合使用施設の基準が適用されず貯蔵施設の基準のみ適用される。線源は耐火性の容器に保管される。非破壊検査に利用される192Irや厚さ計、密度計などに用いられている169Ybや85Krはこの程度の数量が多い。370GBqを超える場合11]は出入り口に使用中の自動表示がある場所で取り扱われる。一個の線源の放射能が111TBq以上の場合出入り口にインターロックが備えてある施設が要求される。このような施設で主に60Coや137Cs線源がγ線照射による滅菌などの目的で用いられている。一般に放射線施設の主要構造物は耐火構造または不燃材料でできており、また線源を貯蔵する施設には耐火性が要求されているので火災に対して注意が払われている。

ところでこのような施設で火災があった場合には線源遮蔽の鉛等が溶解して遮蔽が不十分になっていないか、また線源が壊れて汚染が拡散していないか確認する必要がある。この方法としてはまず空間線量が異常に高くなっていないかどうか確認し、高い場合には付近の床、容器などの表面の塵を手持ちの紙や布でふき取り、施設の外でそれを放射線測定してみることである。これで線源の被覆状態に異常があったかどうか判断できるだろう。

 

五 おわりに

現在の放射線測定器は非常に感度がよく、0.001μSv/hまで測定できるものもある。これで自然のバックグランドレベル(0.05〜0.1μSv/h)の変動を十分捕らえることができる。ただし、低い線量を測定する検出器は高い線量では飽和して失活してしまうのでその測定上限にも注意が必要である。放射線の危険性は当然その数量に依存するので放射線レベルとその危険性との関係を理解し、正しく怖がることが必要である。たまたま事故に遭遇しても焦らずに放射線レベルを把握しながら、適切な行動をとることが求められる。このとき(1)適当に十分な距離をとる、(2)遮蔽体の陰に隠れる、(3)短時間で作業する、の放射線防護の三原則を思い出していただきたい。

 

(注1) 育種:農作物等の品種を人為的に(改良)育成すること

例えば、放射線育種→放射線により農作物等の品種をより良いものにすること

(注2) フォールアウト[fall out]:大気圏核実験で拡散した放射性物質の降下物(粉じんなど)

(注3) 核種:原子核の陽子数と中性子数によって分類された原子(例えば、60Co、137Csなど)

 

参考文献

1] LAEA, Nuclear Safety Review for 1987, (1988) p.73

2] 科学技術庁、原子力事故調査委員会報告、(2000)

3] Pierre Tanguy, IAEA BULLETIN, 30(1988)56

4] IAEA, The radiological Accident in San Salvador, (1990, Vienna)

5] 明石真言、「中国で起きた放射線被曝事故」放射線科学 42(1992) p.282

6] IAEA, Nuclear Safety Review for 1986, (1987) p.75

7] 日本アイソトープ協会、「やさしい放射線とアイソトープ」、(1989)

8] 近藤宗平、「人は放射線になぜ弱いか」講談社(1991)

9] Safe Handling of Radionnuclides, IAEA Safety Series No.1 (1973)

10] 科学技術庁原子力安全局監修、放射線利用統計1999、日本アイソトープ協会発行

11] 日本アイソトープ協会、「放射線障害の防止に関する法令−概説と要点」(1996)

 

 

 

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