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盗難事件の発生から医者が患者の放射線被曝に気がついて救助活動が開始されるまでに一六日間もの時間経過があったため汚染が広範囲に及んだ。二九日ないし三五日後に子どもを含む四名が死亡し、犠牲者の被曝線量は五〜六Gyと推定された。線源は溶解性の塩化セシウム(137Csの放射能:5.09×1013ベクレル(Bq)、 CsCl: 91g)である。九月三〇日から一二月二二日までに約一一二、八〇〇人の汚染検査が実施された。その結果二四九名に汚染が見つかり、その内一二九名が人体の一部に汚染が確認された。そのころは雨期で、汚染が街全体に広がったため、家屋・土壌などの汚染物の総量は三、六〇〇m3となってしまった。

○ サン・サルバドルの被曝事故4](中米のコスタリカ共和国)

一九八九年二月五日、医療器具等を滅菌処理するコバルト-60(60Co)のγ線照射施設において三名が被曝し、そのうち一名が六ヶ月後に死亡する事故があった。当日、夜勤の一人が、線源の位置異常を知らせるブザーが鳴っているのに気づき、復旧作業に努めたが、一人で不十分であることから他の部門の二人に応援を頼んだ。携帯用のサーベイメータも持たずに室内に入り、引っかかった線源ラックのケーブルを引き上げてしまい、三人が足を中心に全身被曝してしまった。

γ線照射装置は一九七四年にカナダから輸入されたもので、線源を貯蔵プールから引き上げて移動ボックスに入った製品をγ線で照射する構造のものである。60Coの線源の強さは、事故当時は約〇・六六ペタベクレル(PBq=1015Bq)であった。一九七五年にも線源が脱落し、その時は専門業者が補修した。しかし、その後一四年間もカナダの業者による補修がされてなかった。

○ 中国の主な被曝事故5]

(上海市) 一九九〇年六月二五日、化粧品や医療用製品の殺菌を行う放射線医学・核医学研究所で60Coの線源により七名が二〜一二Gyの被曝を受ける事故があった。このうち二名は骨髄移植を受けたが、事故後二五日および九〇日後に死亡した。扉を開くスイッチを入れると線源が格納される仕組みになっていたが、この日鍵で防護扉を直接開けてしまったためにシステムが動かず線源が格納されていなかった。部屋に入り、作業をした後操作室に戻ってから線源が格納されていないことに気づいた。(山西省忻州市)一九九二年一一月、井戸の中に廃棄された60Co(4×1011Bq)のγ線源を作業員が自宅に持ち帰り、家族ら九〇人余りが被曝し、八名が急性放射線症を起こし、三人が死亡した。線源は、旧ソ連から購入して一九八二年に井戸の中に捨てた六個のうちの一つであった。

(吉林省吉林市) 一九九六年二・七六五テラベクレル(TBq=1012Bq)の192Ir線源を拾い、放射線源とは気が付かず、ポケットに入れ持ち帰ってしまった。右下肢を切断。骨髄線量の推定は約三Gyである。

○ 旧ソ連、チェルノブイリ原子力発電所四号炉の原子力事故6]

一九八六年四月、この事故は、炉の安全装置を止めて実験運転をしたため炉の出力が急上昇し、水素爆発が起きた後火災が一〇日間続いて、大量の放射性物質が大気中に放出した事故である。死亡者が三一名(四Gy以上の放射線被曝による死亡者二九名)で、二〇三名が急性放射線障害となった。これは今までの最大の原子力事故で、かなりの数の消防士が消火活動に動員された。主な原因は、この炉が黒鉛減速型原子炉で蒸気の泡ができると炉の出力が上昇する特性を軽視して運転規則違反となる操作をおこなったことによる。

 

三 放射線の危険性7]

よく呼ばれている放射線とは、電離性放射線のことで、空気を電離する三四エレクトロンボルト(eV)以上のX線やγ線(いずれも光と同じ電磁波でふつう数KeV以上)、α線(Heイオン)、β線(高速電子)、中性子(電荷を持たない)などである。放射性物質はこれらを放出する元素からなる。放射能とはα線やβ線を放出しながら他の元素に変わる現象またはその物質を呼ぶ。放射能の単位はベクレル(Bq:一秒間に崩壊する原子数)である。放射性物質を体内に取り込んで被曝するようなことを体内被曝(または内部被曝)という。これに対して外部から透過性のあるγ線や中性子の放射線を浴びることを体外被曝(または外部被曝)という。

ウランやトリウムの放射性物質は花崗岩やモナザイト鉱石などの天然の岩石に含まれている。当然ラジウム温泉やラドン温泉として親しまれている温泉地域では岩石に含まれる放射能によりふつうのところよりも放射線レベルが高い。しかし、年に数十ミリシーベルト(mSv/年)程度の被曝線量の放射線は生物にプラスの効果をもたらすということも言われている(ホルミシス効果8])。我々がよく食べている野菜などにも天然放射性物質40Kが含まれている。我々の体には成人で体重の約〇・二%にあたるカリウムが含まれている。そのうちの〇・〇一一七%が放射性元素(RI)の40Kである。人体には約(6〜7)×104Bqの放射能が含まれている。また宇宙線から我々は絶えず放射線を浴びている。

国連科学委員会(UNSCEAR)一九八八年報告書によると自然放射線線源からの年間平均実効線量は表2のように二・四(mSv)と推定されている。自然放射線および人工放射線源から受ける被曝放射線量の割合は、大地からの内部被曝五五・六%、大地からの外部被曝一二・八%、医療被曝一七・一%、宇宙線による外部被曝一二・八%、宇宙線による内部被曝〇・六%、フォールアウト(注2)による被曝〇・九%、原子力産業による被曝〇・〇四%と評価されている。国や地域によってこれらは当然異なる。

 

 

 

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