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放射線事故、放射線の危険性と放射線施設の現状

東京大学大学院工学系研究科 野村貴美

 

一 はじめに

昨年九月三〇日に日本で初めて放射線による死亡者を出した事故が起きてしまった。これは核燃料加工施設で起きた核燃料の臨界事故で、原子力災害の大きな社会問題になった。このとき安全側に取られた処置が皮肉にも風評被害の拡大に繋がったのも事実である。このような施設で緊急作業に従事する可能性のある者にあっては放射線の危険性について正しく理解しておくことが益々重要になってきている。そこで放射線の危険性および影響など基礎的な理解を深めるため放射線による世界の主な重大事故と日本の放射線利用施設の現状を紹介する。

 

二 世界の主な放射線重大事故例

原子力の平和利用が始まって以来、放射線によって不幸にも死亡者が出てしまった世界の重大事故例を簡単に紹介する。

国際原子力機関(IAEA)の報告(一九四五年〜一九八七年1])によると、この時期の放射線重大事故は、総数八〇件で過剰被曝者四二八人、死亡五九人であった。これらのデータに最近の事故例を加えて作成したのが表1である。ただし、旧ソ連については不明なのでチェルノブイリの事故以外は特に載せていない。

原子力施設に関連する放射線事故は原子力開発初期に発生した臨界事故である。このような事故が日本で昨年起きてしまったということは残念である。この表で年号を丸印で示したところはラジオアイソトープ(放射性同位元素またはRI)線源による被曝事故である。原子力関連の事故は致命的な犠牲者が作業者に限られているのに対してRI線源による放射線事故は、作業者のほか一般の人をも巻き込んでいることが特徴といえる。

○ JCOウラン加工施設の臨界事故(日本2])

一九九九年九月三〇日にJCOウラン加工施設の沈殿槽で核燃料の臨界反応が発生した。三名が大量被曝し、そのうち二人が数ヶ月後死亡した。当日臨界状態が続いたため安全防護の処置として、半径三五〇m圏内の住民への避難要請と半径一〇km圏内の住民への屋内退避要請が行われた。約二〇時間後臨界が終息し、避難要請が解除された。発生熱量は約二〇kWで核分裂総数は2.5×1018個(235U約一mgに相当)とされている。原因は三名の作業員がウラン粉末(U-235濃縮度一八・八%)を溶かした溶液を沈殿槽に直接注入し、結果的に過剰のウラン(一六・六kg)が注入されて臨界に至った。作業手順の無視、臨界制限量無視の二つが直接的原因と言われる。死亡者の被曝線量は一六〜二〇Gy(O氏(三五才)一二月二一日に死亡)、六〜一〇Gy(S氏(三九才)翌年四月二七日死亡)であった。一〜四・五Gyの被曝があったとされるY氏(五四才)は幸いに同年一二月二〇日に退院されている。

(Gy(グレイ)は吸収線量〔J/kg〕の単位である。Sv(シーベルト)は人体が受ける吸収線量で、Gyの吸収線量に放射線質やエネルギーなどの影響効果を考慮して定められた放射線防護上の被曝線量の単位である。)

○ ゴイアニアの被曝事故3](ブラジル)

一九八七年九月、廃院となった医療施設内に放置されていた放射線治療用セシウム照射装置が青少年二人(一九才と二二才)によって盗みだされ、廃品回収業場でその線源容器が解体されて放射線被曝事故が発生した。廃品回収業者の親戚や近所の人々が放射性物質とは知らずに蛍光性であったことから好奇心で線源の一部をそれぞれ家に持ち帰ってしまった。

 

表1 放射線死亡事故報告

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