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また、これに対して右側のピラミッドは改善した後、つまりトレーニングをはじめとした適切なコンディショニングを実行した結果として獲得したより良好なまた理想とする消防隊員の業務遂行時の状態です。そしてこのより優れた右側のピラミッドヘの移行にはそのために必要ないくつかの取り組みが必要であり、すなわちこれが「コンディショニング」ということになります。また、言い方を換えると、「消防隊員のコンディショニング」とは消防隊員の心身を常に最適な状態であるよう計画し実行する準備過程全体と言えます。

 

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図3 コンディショニングのピラミッド

 

二 コンディショニングのピラミッド

ではこうした消防隊員のコンディショニングはどのように進めてゆけば良いのでしょうか?図3はコンディショニングのピラミッド、つまり消防隊員に求められる心・技・体を示しています。図からもわかりますように、そのベースは体力を含めた身体的な準備です。具体的な内容としては業務遂行に必要な筋力、筋持久力、スタミナ等の身体的能力とそれらをいついかなる時でも十分に発揮できる健康度(ケガや病気がないこと、または調整されていること)が挙げられます。また、それらを良好に維持するためには前述しました食事等による適切な栄養補給や起床、就寝そして疲労回復のための適切な休養の取り方などの生活管理さらに適正な飲酒や禁煙とストレス管理などもその重要な要因となります。次に求められるのが技術的な準備つまり消防、救助に関する技術・技能の向上です。日進月歩で進歩する消防・救助技術の習得また平素の基礎技能訓練などがそれにあたります。また現場での実作業に際しては必要な情報の収集、作業計画や消火活動の進め方など戦略的準備も欠かすことはできません。またさらに安全かつ効果的な業務遂行には鮮明な意識つまり正しい使命感や責任感に裏打ちされた集中力や意志力さらに適切な判断力といった精神的また心理的な準備が欠かせない条件です。

 

三 消防隊員に求められる身体的資質とコンディショニングプログラム

今回の最後に前述した消防隊員のためのコンディショニングのベースである「フィジカルコンディショニング」、消防隊員として備えておくべき身体的能力とその改善にむけてのポイントについてまとめておきましょう。

さまざまな条件下で消火並びに災害救助にあたる消防隊員にとって求められる身体的能力が多義にわたることは容易に推察されます。しかし、その中でも特にどのような能力が重要なのでしょうか?。その問いに対して明確な答えを出してくれたのが、昨年東京消防庁科学研究所・第四研究室が発表した消防職員の体力管理に関する研究報告です。紙面の関係でここでそれらについての詳しい説明は致しませんが(興味のある方は是非資料を取り寄せて参考にして頂きたいと思います)、この報告によりますと実際に出動した消防隊員の行動調査を基に連結送水管設備を使用する消防活動(ホースカーえい行、資器材搬送、検索活動、救助活動等)をシミュレイトし、その遂行時間とそれを行った消防隊員の各種の身体能力水準(筋力(握力・押力・引力・脚筋力)、筋持久力(腕立て伏せ・上体起こし・スクワット・懸垂)、瞬発力(垂直跳び・脚伸展力)、敏捷性(全身反応時間)、柔軟性(立位体前屈)、全身持久力(自転車駆動によるPWC75%HRmax) )との関連性を検討した結果、特に消火活動遂行時間と高い相関関係が認められたのは上体起こし、スクワット並びに自転車駆動によるPWC75%HRmaxの三つでした。

 

 

 

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