3] 倫理教育訓練体系の設定・実施−倫理規定の浸透・定着に向けての一般的基礎教育訓練に加え、職能別(階層別・部門別)の専門的教育訓練を企画・実施する。
4] 倫理関係相談への即時対応−課題事項をはじめ、各種の倫理的諸問題に関する組織内の質問・相談に常時応ずることのできる窓口(相談室、電話、eメールなど)を組織体内部または外部に設け、守秘義務を明確にするとともに、適切な応答・助言・処置を行う。内部告発の性格を有する情報に対しては、問題解決の保証を約すとともに、提供者の地位の保障を明確にする。
5] 倫理問題を担当する専任役職者の選任−可能なかぎり上級の専任職位を設置することにより、組織としての倫理問題への取り組みの姿勢を内部構成員ならびに外部社会に対して明示し、その最終責任の所在を明確にするとともに、他の組織体において同様の地位にある人々との交流・協調を通じて、社会的規模での組織倫理の確立に向けて積極的貢献を果たす。
6] その他−第三者・外部機関による倫理監査を通じて倫理的実績の客観的評価とその結果の公表など、組織体の倫理的行動に対する社会的認定を獲得するための試みを推進する。
以上が組織倫理の「制度化」と呼ばれる組織体における実践の主要な構成内容である。
このように課題事項の確認を介して組織倫理を具体的にとらえ、それへの対処方法を体系的に整備することにより、組織倫理に対する個別組織体の取り組みは具体性を帯びたものとなり、その実現に向けての努力の目標とともに、実行成果の評価基準もまた明確となる。
なお、組織倫理への取り組みにおいて先行するアメリカにおいて特徴的なことは、個々の組織体における倫理的行動の実現に向けての努力に対する全社会的な支援体制が形成されていることである。最も基礎的なレベルにおいては組織倫理に関する研究ならびに教育、さらには組織体における具体的実践が、さきに述べたような実在事象に関する事例分析、課題事項の概念、そして制度化の手法の三者を共通項として緊密な相互協力関係のもとに展開されているのを見ることができるが、さらに個別組織体における制度化の推進による倫理の実現に向けての努力に対しては、組織体相互間の連携、立法・行政・司法の公的権力による助成、そして般市民による支持と評価とがあいまって、有力な支援体制を構築していることが知られる。組織倫理の実現が現代の社会的要請であることを明白に物語るものといえよう。
六 倫理的組織風土
倫理という言葉が拒絶反応を呼び起こしがちであるのはわが国だけのことではないようである。それは禁止と監視を連想させるのであろう。
しかし、倫理的な組織風土がそのようなものでないことは、倫理が無視され、不正が横行し、あるいは不正が隠蔽され、虚偽がまかり通るような組織風土との比較によって明らかであろう。後者においては組織内に疑惑・不信・疑心暗鬼が漂い、個人は孤独・不安・恐怖に襲われる。そして、もしも不正が発覚するならば、直接の関係者は処罰され、他の構成員たちは士気の低下を免れえないであろう。また、次に来るものは規制の強化で、意欲の減退は避けることができない。不幸な悪循環に陥ることは必至であろう。
一方、倫理的な組織風土のもとでは、構成員のあいだに気を許し合える安心感ばかりでなく、相互の信頼と尊敬が芽生え、それが個人の自発性と責任意識にもとづく動機づけを生むと同時に、心からの協力にもとづく集団の士気を高めることが期待される。そのような組織風土が適切な業務方針ならびに効果的な組織管理と結合するならば、組織体は活気に満ちた業務の展開を通じて社会の期待にかなう機能を遂行し、社会の強力な支持のもとに存続と、さらなる発展を実現しうるであろう。
企業の場合でも、最近では倫理的に優秀な企業は生産性が高く、収益力があり、リスクも少ないとして、そのような企業の株式の組み合わせを投資対象とする投資ファンドがいくつも設定されるにいたっている。
他方で、もしも既存の伝統的なタイプの組織体がその業務の遂行様式により社会の期待に応ええないならば、行政機関に対してはNGO(非政府機関)、また企業に対してはNPO(非営利組織体)といった新しいタイプの組織体が代替・交替の機会を待っているというのも現代の状況である。
中国の儒教において性善説を代表する孟子に次のような言葉がある。「人は為さざることありて、しかるのちにもって為すことあるべし。」(『孟子』巻第八)その現代語訳は、「人は不正不義は絶対にしない、という決心があってこそ、はじめて大事業をなしとげることができるのだ。」となっている。古今東西を通じて変わることのない永遠の真理であろう。