5-4 チェックリストによる安全性の評価手順
1) 概要
従来の設計プロセスでは多くの場合、設計時に考慮した事項や使用状況を明文化した形で残されることはなかったが、今後システムの安全性を規格化するためには、設計段階で安全性をどう考慮し、設計段階の意図を使用者にどのように伝え、その意図に沿って使用されるかどうかを確認する事が求められる。このため、設計開発段階で検討した安全性に関する考察をシステマティックに実施し、記録に残すためのガイドラインが必要である。
一方、船舶の運航はその複雑さや特殊性から操船者の能力に負うことが多く、運航支援システムの安全性を評価する上で人間との関係を明確にすることは必要不可欠である。このため、運航支援システムの安全性確保のガイドラインには、現場で作業に従事している操船者の立場を十分考慮して、設計者及び操船者がお互いの状況や技術レベルを理解してシステムを設計し、評価する必要である。
このためには、以下の作業が必要である。
(1) システムが利用される作業の分析
(2) ユーザーニーズと提供機能のすり合わせ
ユーザーニーズの調査
想定される危険に対する対処法
設計者の提供できる機能の提案
ニーズと提供機能のマッチングとその整合性の確認
(3) 使用現場での機能の有効性の確認
危険に対する対処法の有効性の確認
評価に当たっては、作業分析、ユーザーニーズの調査結果、設計者による機能の提案をベースにニーズへの対応を明確にし、最後に使用状況を考慮した機能の有効性の確認を行う。これにより、評価の出力として、作業分析表、ユーザーニーズリストに対応した機能対応表及び最終確認表が作成される。
以下、着離桟支援システムを対象に、作業分析、ユーザーニーズと提供機能のすり合わせ及び有効性の最終確認について検討する。
2) 作業分析
作業分析では、対象システムを使用した作業内容を要素作業について分解し、各作業についてその概要の把握、必要情報の把握、作業における判断課程および必要な操作の内容を検討し、システムと使用者の関係を明らかにし、システムに必要十分な機能を検討する。また、システムの評価は現状との比較により行われるのが一般的であるので、作業分析でも現状との対比を念頭に入れて作業を行う必要がある。着離桟支援装置を例にすると、着離桟支援システムを用いた1名による操船と従来の2名当直の状況を比較する事となる。また、以下に示す例では着離桟操船の内、より難しいとされる着桟操船について分析を行うこととし、着離桟支援システムとしては、簡易電子海図表示を含まないジョイスティック操船システムを対象とする。
着桟の手順としては、
(1) 港内に入り着桟準備の一環として、通常操船システムからジョイスティック操船システムに切り替える。以下、ジョイスティック操船システムによる操船となる
(2) 速度を調整しながら桟橋に向首し接近する。
(3) 減速しながら旋回し桟橋手前の計画した位置に船を誘導し、ほぼ停船させる。
(4) 横移動により桟橋に接近する。
(5) 減速し、桟橋に接岸する。
と整理できる。要素作業に分類すると以下の表となる。
作業名は上記手順に対応した作業を、要素作業は各作業の段階で行われる作業の詳細を、必要情報および操作と支援機器との関係は要素作業を行うための必要情報及び具体的な操作内容とそれに対応した支援機能を、備考は従来と比較して負担が増えると思われる点等評価において注意すべき点を示している。