8) リスク受容性に対する影響因子とリスクコミニュケーション
リスク心理学の分野では、人々が持っているリスクイメージをSD/Semantic differential法尺度を用いて把握し、因子分析を通じてそれを構成する要素を抽出する研究が進められてきた。この結果から、次の三因子が抽出されている。不随意性/恐ろしさ因子、影響規模/災害規模因子、馴染み/未知性因子である。下記表2[04]にその内容を記述しているが個人の特性、状況認知、安心感等非論理的内容を含む。不随意性因子群は主観的なリスク受容性にもっとも大きく寄与する。経済的便益は随意性の有無により、受容性は約1000倍変化するとC.Starrは結果として述べている[00]。
世の中の事象・科学技術には必ずリスクがあるにもかかわらず、その技術が社会を豊かにするものかどうかの社会的受容性(PA)のもと、それを受け入れるのはリスクを上回る効用があるからである(リスク―便益評価)。効用評価を抜きにしたリスク認知は意味が無いし、その逆も真である。科学技術を含めたあらゆる事象には便益性と危険性が含まれる。従い関係者・企業は事象の持つポジティブ・ネガティブの両側面を公正に伝える、送り手と受け取る側のインタラクティブなリスクコミニュケーション(RC)が必要である。これはアカウンタビリティ、情報公開といった民主的、公正な社会の実現目標という思想に基づき、要求されている。これは科学技術と人間が共生を図る社会技術の一手法である。但しRCは万能ではない。社会合意形成にはリスクの低減があって初めて成立する[09]。
しかし合意を取るべき社会の構成要素が多様であることが問題解決を難しくしているのは、行政の諸事項実施例における問題発生にてよく理解される。従いリスク管理においての取り組みとしてリスクの評価と管理については当初から利害関係者を参加させる手法がとられるようになってきている。日本においてはその自覚に達していない理由は客観的解析へのこだわりと実態把握の理解欠如が起因している。このこだわりが問題解決への阻害要因ともなっている。この側面からも、リスクの認知は文化に規定されているといえる。日本文化は安全と水はただであるという風潮が問題を複雑化・曖昧のものにしている。リスク評価は社会的意思決定にいたる多くの賛同が必要であるので、そのプロセスの透明性と信頼性が重要であり、評価についての批判や検討が許されるのが前提である。このプロセスの構築と実施、妥当性確認が化学産業部門において国際簡潔評価文書/CICAD(回章文書)により広く批判を受けつける体制になっている。