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1) 評価の具体的方法

安全性は社会文化・技術レベル・経済性に依存している。したがって、安全性は従来の自然科学的手法だけで対応できないのは明確であり、統計を用いた客観的安全評価は限られた場合にのみしか適用できない。また、客観評価の根拠になる統計的データの分類別による整理・解析は大部分のケースでなされていない。機器の故障データは少なくとも、予想のつかない原因によりランダムに発生する故障、システマティック故障 即ち設計改善・サブシステムの変更・取説による変更・運用変更・製造段階に起因する故障、使い易さに起因する故障、運用段階の計画管理ミス…等に分類される。各原因系ごとの要因を明確にして、フィードバックサイクルにおける改善に貢献できるような方法を採用すべきである。製造メーカーによってはこれらの問題に積極的に取組もうとしている。

審判記録など人の責任問題が絡む事例の場合、その内容の信頼性に疑問も多い。その改善の為、日本学術会議でも提言されているように、事故受審人当事者に免責を与えても正確な情報を得て、事故要因の系の把握に際し、正確さを向上することが必要であると認識さている。

社会全体が係わる複雑なシステムにおいては、再現性ある客観的数値の把握は非常に難しく、一般的には大雑把なレベルの定量化評価によるのが実情である。マンマシンシステムの設計者は必ずしも新しく解析する場合、必要な確率的データを持ち合わせていない。

そのような環境の中で、製造責任を考え設計を推進するには、『定性的評価』が実務的であり、欧米では多用されているのが実態である。確率的的数値は、その把握の困難さが傷害となっている。現状得られる確率数値の多くは、前述の如く現業の設計へのフィードバックとして利用する場合、分類整理や正確さにおいて問題が多く、効用が少ない。材料力学のような工学分野等においては、再現性を含む統計による客観的評価は行えるが、人間が関与する問題に対しては『統計的客観評価』は難しい。

社会、人間を配慮して製品を設計する実務者が簡単に利用できるのは定性的解析方法とならざるを得ない場合が多く、同方法の導入を計りたい。

実務的な問題を例題として、解析のプロセスの構築と展開を進めたい。その内容として、人間が大きく関係する着離桟操船援助システム、航海支援システム等を取り上げたい。システムとそれを取りまく諸要因の現状を把握して、安全設計を推進する解析手法を示していきたい。

 

2) 設計プロセスの計画と透明化の提示

最近accountabilityと言う用語が品質・安全管理分野において、よく使用されている。本用語の意味である説明責任・証拠責任は、米国で主に行われている製造物責任法に対する対策(PLP)上、企業を含め社会全体が真剣に対応しているところである。それは設計プロセスと意思決定の透明性に言及している。社会責任においては、その意思決定の透明性は、ある時点における最適・合理的判断を如何にしたかが、後日責任を問われる際の重要事項である。このaccountabilityは行政を含め、設計者・運航者とも未だ十分には理解していない。

船舶の運航のようなマンマシンシステムの安全性は単独機器の保護回路・安全装置としては存在せず、システムとして複合したユーティリティー(機能)・ユーザビリティー性・時間依存性を含めた動的判断環境の中で構築していく必要がある。

 

 

 

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