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そのシステムが首尾よく機能するには、操作員がそれを理解し、そのシステムを守らなければならない。高速艇の複雑性が増すために、乗員が艇を適切に操作し、緊急事態に適切に対処することがそれだけ難しくなっている(ある最近の事故では、民間航空機が突然急降下に移り、パニックに陥った乗員が慌ててマニュアルを繰っているうちに墜落した。他山の石とすべきである)。したがって、人的要素の影響をあまり考えずに、安全システムにおいて屋上屋を重ねることが、真の安全性向上につながるのかどうか、よく考えてみる必要がある。

高速艇業界は未だ発展途上であり、誤りを犯すことは避けられない。業界としては、互いの誤りから学ぶことが重要である。現在のところ、設計者、建造者、運航者が互いの誤りから学ぶことができるようなフィードバックのメカニズムはできていない。過去の誤りから学ばなければ、業界は同じ誤りを繰り返すことになる。その教訓の中には、大した費用も掛けずに、船舶の運航や設計に容易に採用できるものもあるかも知れない。Wavemaster社では建造された貨物船やタンカーの事故統計をDNVを通じて入手していて、それには事故の内容、原因、将来の再発防止策などが記載されているが、高速フェリーの事故の報告は、8年間で1件あったのみである。業界として全般的な安全性文化を醸成する一環として、この情報をIMOを通じて運航者、海事当局、船級協会、設計者、造船所など業界関係者に送る(e-mailでもよい)必要があると思う。そうすれば業界全体の向上につながる。e-mailという時代の先端を行く手段を使えば、その費用はほとんど取るに足らない。

多数の航路で、高速フェリーを導入すれば(たとえIMOの旧DSCコードの下でも)、既存の輸送形態に比べて旅客の安全は飛躍的に向上する。在来型フェリーの場合、世界のどこかで数ヶ月に1隻は沈んでいる。IMO・HSCコードの導入により、高速フェリーは一部の人にとって手の届かないほど高価なものになってしまう。多数の発展途上国では、高速フェリーの安全性について自国の国内コードがないために、既存の国際基準を試みに採用してみる。しかし採用してみると、その基準を守ることがあまりにも高価につくことがわかる。ということは、発展途上社会が安全性を向上させるのを我々が邪魔していることにならないだろうか。産業として、我々は絶対的な安全というものは達成できないこと、したがって合意された、容認し得る安全性水準を目指さなければならないことを認識しなければならない。この安全性水準は他の公共交通機関に匹敵するものでなければならない。我が業界はすでに過去15年にわたるデータを保有しているが、それによれば他の輸送部門に比べて、安全性のレベルがきわめて高いことがわかる(死者数データがなくても、例えば軽傷100件あるいは重傷10件が死亡1件に相当するという前提で算定することができる)。

 

 

 

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