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高速フェリー輸送の各社の安全実績は、このように他の公共輸送機関と比較してきわめてすぐれている。全世界の10億旅客輸送キロ当りの死亡率0.11名はノルウェーと英国の航空機事故による死亡率、それぞれ2.2名、0.3名より低い。この表からも明らかなように、高速フェリーのリスクは、自家用車やバイクなど、我々が日常受け入れている交通手段のリスクよりはるかに低い。参照可能な事故データ(軽微な事故も含む)に基づいて、MARINTEKは北欧の高速フェリーについて、実績値0.35名よりも若干高い数値を将来の可能性として予測している。在来型フェリーについて、世界全体の統計は不明であるが、世界の各地域で数週間に1件は沈没事故が起きているようである。高速フェリーの安全性は他の大抵の輸送機関と比較して、格段にすぐれている。以上挙げた統計の大半は、HSCコードはおろか、ISMコードやSTCWコードの導入前に発生した事故に基づくものである。したがって今後は一層の改善が見込まれる。

高速艇のリスクは在来船のリスクとは全く異なる場合が多いのに、在来船に関する規則を援用しようとする傾向が未だに強い(例えばスプリンクラー装置)。当然、在来船には関係ないリスクであるが、HSCの運航には内在するリスクが見落とされているという事例もある。例えば本来のIMO・HSCコードでは座礁について特別な規定がなく、また、あり得ないような種類の衝突を想定した不適切な衝突対策規則があったりする。

 

安全水準

批判するのはやさしいが、船舶の安全性を高めるには、輸送に関する規則を制定する上での基本理念を、妥当な料金でのサービスという社会的、経済的利益との均衡を崩さずに変革することが必要である。事故についていえば、その80%は人的ミスにより生じるものであるにもかかわらず、HSCコードではこれを対象とした規定が20%にも満たない(それでもHSCコードはDSCコードに比べれば、この領域についてはるかに深く踏み込んで規定している)。船舶の設計に関する規則を絶えず増やしてみても、人的要素を克服することはできない。船舶の構造に技術的な変更を絶えず加えてみても、安全運航の問題を解決することはできない。高速フェリーでは複雑性が大幅に増している。年を経るごとに高速フェリーの複雑性は民間航空機の複雑性に近づいているが、HSCの艇長による乗員の訓練のレベルは、航空会社におけるパイロットの訓練のレベルには程遠く、また将来においてそれに近づく見通しすらない。多数の地域において、高速フェリー独特の乗員訓練は、高速フェリー自体の発展に追いついていない。乗員の訓練を別にしても、今後の改革において人的要素を考慮する場合に、その領域によっては、果たして旅客の安全に本当につながるかどうかを問う必要がある。エンジニアが大学で教わる原則の一つは、「単純第一」ということである。どんなにすぐれた安全システムでも、それを操作する人員のレベルを越えることはできない。

 

 

 

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