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設計関連のもう一つの新領域は、衝突した場合の影響を最小限に抑えるための配慮である。数年前に発生した、フェリーが全速で島に衝突した事故にかんがみ、新型のフェリーは2mの岩に全速で衝突する事態を想定して設計されている。小型艇にとってこの負担は非常に大きい。22ノットの河川航行用軽量フェリーの場合、このような衝突では12.3gの加速度が生じる。HSCコードでは旅客用として3点シート・ベルトによる安全装置を義務づけているが、多数の旅客は立っているので、これは役に立たない(郊外の路線バスと同様である)。島に衝突した事故は私の知る限り2件しかないが、高速フェリーが他船と衝突した事故は106件記録されている。減速した状態で他船に実際に衝突した事故を想定する方が、はるかに現実的なシナリオといえるだろう(高速艇は通常、操船性が非常にすぐれているので、大抵は2-3艇身以内で停止できる)。

この他にも、高速フェリーの設計では、ほとんど水没した40ftコンテナに航海中衝突した場合を想定しなければならない。規則によれば、大抵の双胴艇は2区画ではなく、4区画まで浸水しても安全でなければならない。機関室にまで及ぶ損傷の場合、艇体の3分の1が浸水した場合を想定することが要求される。コンテナに衝突する可能性がないとはいえないが、そういう場合でも損傷を受けるのは先ず船首部である。双胴艇の船首がぶつからなかったコンテナに船尾部がぶつかって、2-4区画が破壊される事態は、大変な水平思考的想像力がなければ想定できない。

新規則にはその他にも問題があり、それもさまざまな領域で生じてくる。小型双胴艇で後部4区画に浸水してなお安全を保つためには、機関室をトランソムよりもさらに前部に配置しなければならない。両側の機関室とさらに他の2区画が浸水すれば、前後の傾きが非常に大きくなるからである。そうすると機関室の位置は暴露甲板の下ではなく、主客室の下ということになり、機関室に火災が発生した場合には、危険性が増すことになる。客室に侵入する煙が多くなり、究極的には客室類焼の危険も高まる。この可能性の方が、後部4区画がコンテナに衝突する可能性より確実に高い。

添付した写真は、鋼製コンテナを積んだ鋼製バージに、30ノットを超える速度で衝突した高速アルミ製フェリーを示す。写真1では、フェリーの船首がコンテナに深く食い込んでいるのがわかる。写真2はバージの鋼製甲板が3mにわたって切断された、バージ側の損傷を示している。コンテナの損傷はさらに大きく、高速フェリーの船首形状そのままに切り込まれている。写真3ではフェリー側の損傷が比較的軽いのがわかる。船首に約1.5mにわたる損傷が生じ、船首隔壁には小さな穴が空いた程度である(ビルジ・ポンプで対応できる程度に浸水が生じたに過ぎない)。伝統に固執する人の中には、未だにアルミが艇体材料として信頼できないという向きがあるかも知れないが、そういう人は、高速艇というものが船底外板に6トン/m2を超える力が加わっても耐えられるように設計されているという事実をご存知ないのだろう。

 

 

 

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