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本当に旅客の安全を図るのであれば、こういう衝突の原因にさかのぼって、運航方法の改善によって事故件数を減少させるべきである。一つの解決策として、交通量の多い水域ではフェリー専用レーンを設けることが考えられる。したがってこの面でもコードをさらに見直す必要があると思われる。

極端に可能性の低い、あるいは発生しても重大な危険を招かないような事象に対して不必要な規制を設けることを避けるために、新規則をもう少し体系的に吟味する必要があるようだ。そのためには、発生し得るリスクの確率と、発生した場合の影響とを推計する公式安全性評価が最善の方法である、と私は考えている。

現在、IMO・HSCコードの改定作業が進められていて、Wavemaster社や、オーストラリアの他の造船会社もこれに参画している。IMO当局者には、一部の問題領域を是正することに、未だに強い抵抗感があるように思われる。さらに新たな規則も提案されている。その中には、座礁による100%の船底損傷にも耐え、しかも単に沈まないというだけでなく、一連の復原性基準を満たすような設計を要求する条項もある。これを航空機にたとえれば、両翼を失ってもまだ飛べるように支援する手段を要求するようなものであり、あるいは自動車であれば、どんな衝突にも耐えられることを要求するに等しい。二重底が一つの解決策ではあるが、これにしても小型船の場合には、機関部空間が狭いために溶接の質が落ちるために疲労の問題が深刻化するとか、船体点検の際にこの空間を検査できないなど、別の安全性問題を生じさせる。双胴フェリー「セント・マロー」号が座礁した事故では、12区画中6区画に穴が空いたが、沈没はしなかった。アルミ製高速双胴艇の安全性を裏書きするものである。Wavemaster社は高速艇の座礁による損傷事故への対応を支援しているが、100%の損傷に備えるということは実際的でないばかりか、非常にコストが嵩むものと考える。

 

安全性の実績

現在までの高速フェリーの安全性実績は、悪いどころか抜群にすぐれている。特筆すべきこととして、この抜群の安全性実績の大半は、HSCコードの導入前に設計された艇によって積み重ねられたものである。全世界にわたるフェリーの統計は不明だが、慎重な前提に基づいて、全世界にわたるフェリー運航について推計がなされている。最近のMARINTEKの調査によれば、全世界で高速艇の事故による死者は9名しかいない。

 

 

 

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