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IMO Res. A562では、瞬間風速では81ノットにも達することのある、平均56ノットの風と、その風が発生させる荒波(ビューフォート風力階級で56ノットの風が吹けば、波高は14mを超えるものと推計される)とに船がさらされることを想定している。同コードでは風圧を若干低く想定することは認めているものの、波力は全面的に働いて船体を横揺れさせるという推計式が採用されている。この方式によれば、わずか25ノットの風でも、中小型の単胴船であれば転覆の危険があるとされる。この方式通りであれば、今までにすでに多数の中小型単胴フェリーが転覆しているはずだ。私の知る限り、このような状況で転覆した高速単胴フェリーなど1隻もない。多数の単胴フェリーでは予備浮力をたっぷり見込んであり、また初期メタセンタ高も十分で、3mを超える例さえ珍しくない。高速フェリーは運航制限を受けている船種で、風力10を超える荒天では運航しない。さらに、船の転覆は横波で起きることはあまりなく、大抵は追い風から急に横風に変わるような状況で生じる。このような状況は、この方式でも、IMO・HSCコードの他の基準でも想定していない。

 

新規則のコスト、その他の経済的影響

IMO高速艇コードの導入以来、船舶の設計にさまざまな変更が生じ、一部の領域では追加設備が必要になったり、その他の規定では船のレイアウトに大幅な変更を余儀なくさせるものもあった。Wavemaster社ではIMO・HSCコードの新規則に合致するために、設計の大幅変更に多額の投資を強いられた。建造費でいえば、IMO・DSCに合致する船舶の建造費に付加されるコストは、30mの単胴艇で250,000米ドル、40mの双胴艇で300,000米ドル前後に及ぶ。従来であれば40m双胴艇の建造費は約600万米ドルであったが、新規定によるコスト上昇分は約5%にとどまる。しかし170万米ドル前後の30m単胴艇の場合には、コスト増加率は15%にも達する。小型艇の場合、HSCコードの規定による重量増から船速が最大1ノット低下し、燃費は3-4%悪化、その他にも付加設備の維持費が加算される。このように新規則がコストと性能に及ぼす影響は小型の高速フェリーにおいてはるかにきびしく、したがって他の輸送形態と比較して経済的に不利な条件を負わされることになる。どんな輸送システムでもそうであるが、フェリー・サービスは営利事業であり、資本調達費、保守管理費、燃料費が運航費用の主要部分を占める。コストが上昇すれば全面的に運賃に反映せざるを得ない。規則を増やす政府機関、その同じ政府機関が、高速フェリー・サービスに補助金を支給せざるを得ないことにもなり兼ねない。コストが上昇し、経済的に存続が危うくなった高速フェリー・サービスの安全性と利便を社会が引き続き享受できるようにするためには、それが必要だからである。問題の核心は、新コードの採択による運航費の増大が、全面的に旅客と乗員の安全性向上につながるか否かということである。

 

 

 

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