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高速フェリーのオープン客室では以下のような条件が存在する:

・発火源-希少(主としてタバコ)

・可燃物-IMCのHSC防火規則は内装材について厳密に規定しているので、延焼の危険性は厳重に抑えられている。火災が生じても、炎が広がるのはきわめて遅いものと思われる。

・検知-煙検知器、乗員、そして船客自身と、検知する手段や人は多数に上る。オープンな旅客船室では、航海中に火災が生じてもすぐに検知される。

・消火-多数の消火器や消火栓が備えられている。乗員の訓練を適切に実施すれば、火災が起きてもすぐに消し止めることができる。

スプリンクラー装置を設置すると、自由面復原性の問題発生を防止するために、スプリンクラーから撒かれた船上の水を回収するという問題も生じる。そのため、HSCコードでは、船上から排水するための、広範囲に及ぶ非逆流排水装置の設置を義務づけている。スプリンクラー装置はかなり高価なものであるが、造船所としても、造船技師としても、これを義務づけて安全性がどのように向上するのか、理解に苦しむ。わが社だけではなく、他の多くの造船所、運航事業者、船級協会検査員をはじめ、一部の海事当局も同じ見解である。因みに、高速フェリーの総運航時間が他のどこの国よりも長い香港の海事当局も、管轄水域において運航される高速艇にスプリンクラー装置の設置を義務づけていない。高速フェリーの事故についてUK.MSAが行った公式安全性評価調査(MSC68/INF.6、1997)において、300件の事故のうち火災によるものはわずか20件で、しかもその大半は機関室で生じたものであり、旅客スペースでは火災は1件も発生していない。商業旅客機にも同じようにオープンなパブリック・スペースがあるが、旅客スペースにおける火災発生という、きわめて確率の低い可能性に対して多年にわたり首尾よく対処してきた。商業旅客機にはスプリンクラー装置も消火栓もなく、客室の火災には携帯式消火器で対応している。

現行のIMOコードは依然としてスプリンクラー装置を義務づけているので、明らかにIMO・HSCコードのこの条項は、修正案の若干の条項と共に、見直す必要がある。

現行コードでは、復原性に関する規定も検討の余地がある。新コードでは、厳重な風速天候基準(IMO Res. A562)が、運航制限のある単胴フェリーとしては初めて適用された。運航制限のない客船や大型漁船は公海を航行するため、ビューフォート風力階級10という荒天でも避けることができないが、この基準はそれらの船舶に適用される基準を転用したものである。この方式は深喫水の鋼船を標準としたもので、軽量硬質チャインを採用した単胴船の挙動を示すとは思われない。

 

 

 

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