この内部の残留応力は、外部から力がかかったときに、破壊を助ける方に働いたり、変形を生じたりする場合がある。
(3) 材質に変化を生ずる。
溶接による熱により、溶接部とその周辺の熱の影響の及んだ部分では、鋼材の性質がかわる。例えば、硬さが増したり、また、粘り強さが減ったりする。
(4) 割れの伝播に対して抵抗力が少ない。
(5) 検査方法が難しい。
溶接による欠陥が種々あることと、その欠陥を定量的に計測することからむづかしい。従って、合否の判定の厳密な基準がむづかしく、検査する人の能力や主観に左右される部分が多くなる。
1.2 溶接用鋼材
我々が鋼船建造に当って扱う材料は、特殊な場合を除き、引張り強さが41kg/mm2〜50kg/mm2の軟鋼(Mild Steel)と引張り強さが50kg/mm2〜60kg/mm2の50キロハイテン鋼(High Tensile Steel)である。これらの鋼材の選択は、設計条件及び船級協会規則に基づいて行われている。
鋼材が満足する材料であっても、建造時に適用される溶接施工法や溶接条件あるいは溶接継手の拘束応力などの影響によって溶接欠陥の発生や、継手性能の低下の問題が生じることもある。
また鋼材は一般にその化学成分や、機械的性能にバラツキがあるが、鋼材の選択の際にはこれらのバラツキについても十分考慮するとともに、現場管理の一環として鋼材の管理にも十分注意を払う必要がある。
1.2.1 元素の影響
鋼は炭素量2.0%以下の鉄の合金であるが、炭素以外にシリコン、マンガンを少量加え、また硫黄、リンその他不純物が少量づつ含まれているが以下にこれら元素の影響を述べる。
(1) 炭素
炭素(C)は鋼材の硬化にもっとも影響の大きい元素である。炭素量が0.25%以下の場合焼入硬化性をほぼ無視できる。
(2) マンガン
マンガン(Mn)は炭素鋼には重要な元素で、硫黄の害を除くほか、強さと靱性を増す作用がある。最近の溶接用軟鋼には、0.6〜0.9%のマンガンを加えている。しかし1.5%以上のマンガンは伸びを減少させる。