j1のクルーを上げたハイクルー、通称ハイカットのジブであるj2については、セール面積で無次元化してもなお、性能は芳しくなかった(Fig.25)。この差は実験値を見ても明らかだったので、シミュレーションは行っていない。
これらに引き続き、m0+j1の組み合わせについて検力を行ったので、合わせて示してある。m1+j1と比較すると、メインセールの大きい分、迎角の大きな範囲でFx、Fyとも大きい。これは、基準となるm0+j0の状態から小さなメインセールであるm1+j0に変更した場合と、当然ながらまったく逆の特性を示している。セール面積で無次元化すると、迎角の小さな範囲で揚抗比が悪いことがわかる(Fig.25、26)。このことが影響してか、シミュレーション結果によると、m1+j1からm0+j1への変化、つまりメインセールを大きくしても、風速10から14ノットの範囲では、性能向上はほとんど見られないということになっている(Fig.19)。これには多少の疑問も残るが、実はIMS VPPの計算でも同じような結果になっており、特に風速10ノットですでにかなり大きなフラットニングが行われているのが特徴である。なお、実験日時も後期であったため、セール形状が多少崩れていたことも考えられるが、この点に関しては、前述したように今後の課題である。
いずれにせよ、このリグを採用するのは、スタビリティのあるボートで、強風のリーチングが多いなど、限られたケースと考えられる。
4) ローテーションマストの効果(Fig.28−32)
マスト断面は、
通常マスト 12X8mm 楕円形
ローテーションマスト 19X9mm 砲弾型
ローテーションマストの実験は、セールをm0+j1の組み合わせにして行った。ローテーションの角度は、全て目視で、「角度大」がマストトップの風見と平行か、わずかにマイナスの迎角がつくようにした。「中間」は「角度大」と「ゼロ」のおおよそ中間である。
Fig.28によれば、マストをローテートすると、しないものに比べ、迎角が大きな範囲で特にFxが大きく、特性が良くなることがわかる。 迎角の小さな範囲では推力横力とも大きな力が出やすく、特性もわずかながら優れている。また、迎角が大きくなると、ローテートする角度も大きくする必要があることがわかる。
次に、ローテーションマストをローテートしない場合、つまり単に大きな断面のマストを使う場合は、同じセールプランで断面の小さい通常マストをセットしたm0+j1のリグに比べ、推力横力とも小さい。特に迎角が大きな状態で揚力が出ないのが特徴である。これは、マスト風下側に大きな剥離域ができるためと考えられる。
Fig.30のシミュレーション結果からすると、ローテーションの効果自体は、平均1.4%のVMG向上があり、特に風速が低く迎角が大きいところでの効果が大きい。一方で、もしローテーションをしないとすると、断面の小さな通常マストよりも、平均0.8%VMGが劣る。