基準となるm0+j0の組み合わせに対し、小さいメインセールであるm1+j0では、Fyが小さいので全体的に横力が出にくく、特に迎角が大きい範囲ではその傾向が著しい。しかし、小さい迎角での推力横力比は悪くない。しかもこれらをセール面積で割って無次元化して推力係数Cx、横力係数Cyのグラフにしてみると、セール面積に見合った横力は出しており、かつアスペクト比が高いことも影響してか低抵抗であり、優れたセールであることが読み取れる。セール面積は約7%小さいが、推力の落ちはそこまではなさそうであり、従ってややアンダーパワーであることと、またクローズリーチに弱いという弱点はあるものの、省力化という点では十分に採用する価値があるといえる。
次に、小さいメインセールと高いホイストのジブの組み合わせであるm1+j1は、25度以内の迎角では優れた特性を見せている。Fyも若干大きいが、それ以上にFxが大きいのが特徴である。
高いジブセールの効果は、ジブ前半の推力を出す部分の面積が大きいことと、メインに対してセールをより引き込めるような風の流れを与えることにあると思われる。これによりメインとジブの循環の相互影響によりジブの推力が増し、セール全体の揚力も増加していることが考えられる。現象的には、ジブにj1をセットした場合は、かなりメインセールを引き込んでも、メインセールのリーチに取り付けたタフとがストールしないことが確認された。セールの面積は約95%であり、セールプランとしてはm0+j0、m1+j0より優れたものと考えられる。
なお、この日以降、m1+j1を再実験してもこれほどの好結果は得られなくなったが、これはセールのパネル接合部のずれが発生して修理を繰り返したことや、リーチのカットにより、セールの形状が変化したことが原因と思われる。しかしそれでもなお、セール面積で無次元化すると、明らかに優れていることがわかる(Fig.26)。微妙なセール形状の変化で、どの程度性能が変化するかは、今後の課題である。
以上の3種類のセールプランのシミュレーション結果について考察する。
Fig.19によってセーリングヨットの性能を表すVMG(艇速の風上方向への射影成分)を比較すると、基準となるm0+j0に対し、m1+j0は平均マイナス0.8%、m1+j1は平均プラス1.9%である(修理後は平均プラス0.6%)。いずれも、風速が速くなってくるとその差が少なくなる傾向を見せており、実験値に対する考察と一致している。
使用したセールモデル化の面積係数はFig.20の通りであり、前述したようにm1+j0は面積が小さいこともあって同じ迎角でも揚力抗力とも低く、特に大迎角での特性は他と大きく異なっている。しかしながら、実際にVMGが最大になる最適状態を計算したFig.21を見ると、視風向AWAは24度弱であり、しかもトリム変化に相当する有効迎角AWACはさらに小さいので、30度を超えるような大迎角での特性はほとんど関係ないことがわかる。