5. 実験結果と考察
5.1. アップウインド
1) 一般的な傾向
まず、m0+j0の組み合わせによる結果を検討する。これは基準となるセールのため、何度も計測を行ったが、実験日時によるばらつきはそれほど見られず、セール形状、検力とも、十分な再現性があることを示している。
Fig.14におけるFx - Fyのグラフは、X、Y軸方向の力を動圧ρv^2/2で割って準無次元化して面積係数とし、迎角別にプロットしたものである(以下同様に、「F」とあるのは力ではなく、面積係数のことを意味する)。 縦軸Fxが推力、横軸Fyが横力なので、原点からの角度が「推力横力比」を示し、原則的にはグラフの左上側に位置するほど、小さい横力で大きな推力を出すことを意味し、優れた特性ということができる。
迎角の変化によるグラフの傾向は、かなり右上がりであるが、必ずしも迎角の大きいところで使うのが最良というわけではなく、VMG最大となる迎角は船体やキールラダーとの組み合わせによって決まり、シミュレーション計算によれば、23から25度程度である。
同じ迎角どうしのプロットは、あるトリムの状態で最も推力横力比が大きく、それ以外は多少のトリムの違いにより、少し左下がり、そして左上に凸になるラインを描く(このような、セールトリムが微妙に変化した場合のプロット点のラインを、トリムラインと呼ぶことにする)。 また、実際のせーリング状態における、ある迎角での最適トリムは、最も推力横力比が高い点と、Fxが最大になる点の間に存在する。
一方、Fx、Fyを流れの方向に対する抗力Fd、横力Flの関係に座標軸を変換して直すとFig.15になる。このグラフでは、原点からの角度が揚抗比である。トリムや迎角による変化の範囲が狭いこともあり、全点のプロットは、おおよそスムースに並ぶ。本来トリムラインは原理的には右下に凸となるはずだが、適正トリム範囲内では特性の変化はナチュラルであり、これは、トリムの微妙な変化は迎角の微小変化とぼほ同じ効果を出すことを意味している(本研究で作成したVPPでは、これを利用してセールを微調整した場合の検討を行っている)。
しかし、よく見ると、迎角が30度を超えたあたりでは、トリムにより値がばらつき、右上がりが大きくなる傾向が見受けられる。これはセーリング状態においてはクローズホールドではなくクローズリーチであり、セール形状の項で指摘したように、セールをその状態に合わせて最適にトリムできていないことを意味している。
シミュレーションに用いるセール流体力の係数は、前述のように迎角別のFd、Flのプロット範囲の中で、Flが最も大きく、しかもFdが低くなるような点をその迎角での面積係数として採用した(Fig.15)。
2) セールの組み合わせ
Fig.16−18にセールプラン3通りの結果を示す。これらは約半日で連続的に計測しており、データの信頼性は高いと考える。