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女性は、職員と私たちの話を側で静かに聞いていたが、しばらくすると私の肩を叩き、庭にきれいな花が咲いているから見ませんかという。「ぜひ、見せてください」と案内されるままにベランダに出ると、広い庭にベンチが置かれ、たくさんの鳥が飼われていた。花こそまだ咲いてはいなかったが草木がたくさん植えられ、春になるといろいろな花が咲き出すのではないかと思った。「私は、ここにいるのが好きなんです」と、その女性は終始笑顔を絶やさず穏やかに話した。この人が痴呆だとはとても思えない。娘さんの話によると、夫婦2人で暮らしていたが、父が急死してから言動がおかしくなったという。夫の死が受け入れられずに、食事も2人分用意して夕方になると帰って来ないと探し回った。娘さんには障害児がおり、母親を引き取ることもできず困っていたところ、この新しい取り組みのグループホームに出会ったという。個室で自分の家具を持ち込み、身の回りのことは自分でするという生活が環境の変化の適応をスムーズにさせ、生活能力を維持させているのだという。

入居者は10人で全室個室、費用は特養ホームの入居者と同じ。夜勤者も1人付いている。現在、この形は特養ホームの新しい取り組みであるユニットケアとして発展している。

(了)

 

 

 

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