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これは言っておいたほうがいいでしょう。そのサロンに老人が集まるかどうかは老人の勝手、ということです。老人たちに見込まれれば、たくさん集まるだろうし、見込まれなければ、このように開店休業になってしまいます。しかも見込まれるかどうかは、ヘルパー2級を取るとか取らないとかにはまったく関係なく、その人の生まれ持っての資質によるのです。

これが近隣の基本ルール。福祉という営みの本当のむずかしさはこういうところにあると言っていいでしょう。その「見込まれた人」の性格や資質のどの部分が影響しているのかさえ、まだほとんどわかっていないのですから。

では見込まれなかったら完全にアウトなのかというと、必ずしもそうとは言えません。次善の策があるようなのです。たとえば、主宰者が目指す相手(前項の話では老人)は集まってくれないけれど、意外な人がやって来ることも考えられます。

冒頭の新潟県のケースでは、ちょうどサロンのある通りが高校生の通学路になっていて、そのせいか高校生が室内をのぞきに来たりすると言っています。それがヒントです。

長野市のある民生委員が、自宅を老人のサロン用に建て増ししたけれど、誰も来ないと言ってきました。

ところが、意外なことに、姑や舅を介護している嫁や娘が、介護の手の空いたときにフラッとやって来て、ひとしきりグチを言って帰って行くというのです。しかもそういう人が数名いるのだと。そこでその民生委員、彼女等の悩みを受け止めてくれる老人を何人か引っ張り込もうかなと考えている、と言っていました。

これが正解なのです。つまり自分の開いたサロンに誰が近づいて来たか、そこにヒントがあるのです。

また、そのサロンを見込んだ一人が、他の人を引き連れて来るという事例もあります。この場合、主宰者は見込まれなかったのですが、その常連を見込んだというわけです。

長野県駒ケ根市で元板金業の飯島さん夫婦が空き店舖を改造して「てくてく」という名のサロンを開設。数か月後「客の集まり具合は?」と電話してみたら、ここでもお誘い屋さんが活躍しているようです。

夫に死なれて沈み込んでいた頃、偶然知った「てくてく」で囲炉裏を囲み、おしゃべりしながら食事をしたら憂さも晴れた。「孤独は絶対にいけない!」と痛感した彼女は同じ境遇の女性を毎日、2人3人と引っ張って来るようになったのです。

(了)

 

 

 

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