オンブズマンに期待
では、どうやって介護サービスを改善していけばいいのでしょうか?
問題は、実際にサービスを受けている利用者の声をどのように集めていくかです。介護を受けている高齢者というのは、身体的にも精神的にも自分の主張を表現する能力が弱っています。また、サービスを受けているという受け身の立場にあるため、施設職員さらには家族にまで気兼ねして暮らしています。高齢者の立場に立った第三者が不満や悩みを聞き出し、その人の声を代弁することが求められています。
私たちは「介護保険市民オンブズマン機構大阪」というNPOを運営しています。四〇時間の研修を受けたオンブズマン三十数人を昨年十一月から大阪府下の一〇の特別養護老人ホームに派遣しています。
授業料を払って学び、ボランティアとして働きます。募集したら二百数十人の応募があって、約六〇人が実際に受講、その中でも「本当にこの人ならオンブズマンとして活動していただける」という人を作文や面接を通じて選びました。男女半々で、主婦や退職した六〇代前半の方が多いですね。施設と機構が年間契約(事務経費として二〇万円)し、二人ずつのペアで一、二週間に一回の割合で派遣しています。
福祉に消費者意識の芽生え
オンブズマン導入の効果は?
今、オンブズマンを受け入れている施設は、施設の処遇に自信を持っているところ。大阪府内では、自他ともに認める優秀な施設といえます。ところがそんな施設でもオンブズマンを通じてお年寄りの多くがいろんなことで気兼ねをしていることがわかりました。
たとえばある人は、手押し車を使えば自分で歩けるのに、そうするとズボンがずり落ちてしまう。それが恥ずかしいので車イスに乗っています。「ズボンを上げてほしい」という簡単なひと言が、忙しく働く職員への遠慮から口に出せないのです。また、ある人は「消灯は九時だけれども同室の人が八時に寝るから仕方なく寝ている」そうです。
オンブズマンが聞いて問題だと考えればきちんとした形で施設側に伝えます。それまで優秀な施設としてやってきたけれども、実は利用者はもっと違った部分で悩みを抱えていると施設側が気づく。お互いに気づくことによって介護のレベルが上がっていきます。
消費者運動はこれまで日本ではなかなか根付きませんでした。ところが、介護保険の導入によって、福祉という、権利が一番発揮しにくい部分で消費者意識が芽生え始めている。これは非常に面白いことだと思いますね。