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一方で予想外だったのが、事業者側の不満が強いこと。たとえば旧来の福祉をやっていた人たちには、新しい制度についていけないという不満があります。それまでは予算を使うことが仕事で、自分で稼ぐという発想がなかった。福祉の専門家ほどその傾向が強いようです。

さらに民間企業もまた予想以上に甘い見通しを持っていました。介護ビジネスに新規参入した企業の多くが「競争型の事業を展開すれば措置型の福祉サービスに不満を持つお客さんが流れてくる」と考えたようです。しかし、蓋を開けると、利用者の八割が旧来の事業者のところにとどまっていた。確かにそれまでの措置サービスに不満を持つ人はいますが、すぐに新しいサービスに飛びつくことはありません。ある意味でこれは当たり前。運営主体がどうであれ、地域に密着し、地道に新しい人間関係をつくり出している企業が事業を拡大しています。

関西では全国展開した民間事業者によるリストラを機に、ヘルパー養成講座の受講生が減っています。労働力不足が懸念されますが、ヘルパー養成講座といっても、本当に役立つのは修了者のよくて三割。その意味では、介護バブルがはじけて本当の意味でのヘルパー、つまり「仕事としてやっていこう」という強い意欲を持った人が残ったといえるでしょう。

介護保険では利用者が事業者を選び、またヘルパーも事業者を選びます。収穫逓増の法則ではありませんが、伸びる企業はどんどん伸び、ダメなところはどんどんダメになる、今後この差がはっきり出てくると思います。

 

介護保険は市民革命

 

介護保険の事業者としてNPOなどが注目を集めていますね。

 

大阪市では、措置時代に社会福祉協議会が約一〇〇〇人のヘルパーを抱えていました。介護保険に移行するにあたり、リストラを行いました。そうすると優秀なヘルパーが自分たちでNPOや会社を作り始めた。自分たちで起業し問題を解決していこうという機運が生まれたのです。このように、介護保険を機に多様な市民活動が事業として生まれています。さらにその活動内容にも大きな変化が見られます。サービスを利用する側も提供する側も市民ですから、「市民は被害者で、企業は消費者を食い物にする存在」という図式は成り立ちません。相手を批判する市民運動から、サービスの利用者と提供者が柔軟に行き来する対等な関係が出来上がりつつあります。

 

 

 

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