その緊張感がある意味では心地いいし、モノではなく人を相手にする仕事というのは、やはり、温かい気持ちになれるのがいい。思いがけず、お年寄りから“ありがとう”なんて言葉をかけてもらうと、ドキッとしちゃいますからね。また、人生の先輩の姿を目の当たりにするわけですから、いろいろと考えさせられることも多いんですよ」
鈴木さんの奮闘ぶりを見聞きしていると、これからは介護の現場を、中高年男性の転職先なり、第二の人生の柱に据えることも、まんざら悪くないように思えてきた。というのも、鈴木さん自身は「年を取っていることのメリットは、古い歌を知っていることくらい」と謙遜するが、現場を見ていると、介護されるほうも年齢の近い人には親近感を抱くようなのだ。また女性はいくつになっても異性にやさしくされるのはうれしいようで、鈴木さんが話しかけると、おばあさんの表情がとてもやわらかくなるのが印象的であった。
「ただ単に、職がないから介護の仕事にでも就こうでは続かないと思うけれど、人が好きで、お年寄りが好きで、人に尽くすことを自分の喜びに感じることができる人なら、苦労を苦労とも感ぜずに打ち込んでいけるし、やりがいも十分あります」
板前から転身して半年余り。ホームヘルパー二級の資格も取得して、介護技術にも磨きをかけつつある鈴木さんは、最後に「この道も奥は深いのでもっともっと勉強を積んで、お年寄りに喜んでもらえるケアをしていきたいですね」との抱負を語った。どうやら今度は、「介護の職人」を目指そうとしているようである。